山旅ツアーレポート◆南米西海岸3つの絶景縦断 2018年4月15日~4月27日




◆チリ、ボリビア、ペルー。南米3ヶ国縦断の旅

地上でもっとも乾燥した大地と言われるチリ・アタカマ砂漠。人気の絶景スポットボリビア・ウユニ塩湖、色とりどりの地層がうねるペルー・レインボーマウンテン。一生に一度は訪ねたい南米西海岸の絶景を巡る13日間のツアーレポートです。

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◆アンデスの麓にひろがるチリ・アタカマ砂漠へ

日本からカナダで乗り継いで移動すること約1900km、到着したのは南米チリのサンチャゴ。地球をほぼ半周する距離を移動したことになりました。あれだけ高速の飛行機でも移動するのにこれだけの時間がかかるのですが、個人的にはより旅に出たという気がするので決して嫌ではありません。チリは鉱物資源に恵まれているため、南米では比較的豊かな国として知られています。この時期のサンチャゴはまだやや暑いものの、低湿度のため日陰はやはり肌寒く感じるような陽気でした。市内をざっと観光してから早めにホテルに。翌日はもう移動です。サンチャゴにつかの間の別れを惜しみながら、チリ北部のカラマへと飛びました。南北に細長くその距離は4000km以上もある非常に特異的な形をした国です。機内の窓からはアンデスの山並みと広大な砂漠の景色が広がっており、移動中の景色も空から楽しめます。到着したカラマはすでにアタカマ砂漠の中にある町ですが、アタカマ砂漠観光の拠点となるサンペドロ・アタカマへ移動です。ここに連泊してまずはチリのアタカマ砂漠を楽しみます。その前に、砂漠というとサハラ砂漠のような砂や砂丘が広がる草一つ生えてないような不毛の大地をイメージする方も多いのではないかと思いますが、実は砂漠にもいろいろな形があるのです。

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確かに草木は少ないものの、砂漠は資源が豊かな場所でもあるのです。それが地下に眠る鉱物資源です。生き物が生きられない“死”の世界というのではなく、アタカマ砂漠はむしろ地球が生きていることを強烈に実感させてくれるような場所でした。過酷な環境ではありますが、ビクーニャやアンデスギツネ、ツノオオバン、フラミンゴといった生き物たちがちゃんと生活しているのです。日本とはまったく異なる地球の息吹を感じるそんな不思議な場所です。

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ぐつぐつと湧きながら吹き上がるタチオ間欠泉、真っ青な青空さえも嫉妬しそうなほど美しい湖面をしたミスカンティー湖、月面を思わせることから名がついた月の谷。この月の谷に下りてみると、あちこちに岩塩の塊を目にすることができます。雨風で浸食された岩塩は、鋭利な刃物ように幾重にも並ぶ規則正しい模様のように表面が形成されていました。ウユニ塩湖に通じる“塩”の発端を感じたような気がしました。月の谷を見渡す展望地で沈みゆく夕陽を眺めながら暮れゆく砂漠の景色と、夕闇に消えてゆくアタカマ富士(リカンカブル)を見ながら贅沢で幻想的なお茶の時間を味わいました。

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◆チリからボリビアへ。砂漠に点在するオアシス

翌日は雪を少しだけかぶったリカンカブルを終始見ながらボリビアとの国境へ。出国の手続きをしてからさらに車を走らせて、今度はボリビアの入国手続きをします。そこには質素な建物があり、お役人も当然駐在して仕事をしています。息の切れる仕事です。

ここでボリビア側のガイドたちと合流し、チリのガイドとドライバーにお別れをして本格的にアタカマを走るための4WDに分乗します。

目の前にはもうすでに絶景が広がり、そこで生きるキツネとビクーニャが出迎えてくれました。厳しい環境に生きながらもその愛くるしい仕草と表情になんとも癒されました。いったいこんな環境でどうやって生きているのだろうかと、頭の中には疑問符がいくつも浮かびっぱなしです。

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人工物もなくなり、風もなく静まり返った景色の中に身を置いていると、いったいここは地球なのかと自分の居場所を疑ってしまいます。それほど圧倒的な光景でした。すぐに我に返りはしますが、やはり世界は面白いなと実感する光景がこの後も連続する絶景のジェットコースターに乗ったようです。

ラグーナベルデはちょうどリカンカブルの裏側にある湖。この日は風がなかっためにそれほど緑色(ベルデ)には見えませんでしたが、背後にリカンカブルが聳える景色はそれだけでも十分美しいものでした。単なる砂の大地ではないこれも砂なのかと、砂漠の虜になるようでした。いや、もうすでになっていたと思います。

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さらに車を走らせ、次に到着したのが「ダリの庭」と呼ばれる場所でした。ダリ?あのスペインの?そうです、ダリはスペインが生んだ天才画家のひとり。当時流行っていたシュールレアリスムと呼ばれる超現実主義の影響を強く受けた彼の絵は、一見理解不能です。この風景がまさに超現実的な雰囲気があることから名付けられたようです。たった1枚の写真ではわかりにくいとは思いますが、その景色の中にいるとダリの庭という名称がぴったりでした。その後、野天風呂のある場所で昼食、さらにアタカマ砂漠を進みます。

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巨大な泥の温泉施設のようにぐつぐつと煮えているソルデマーニャ間欠泉。広大な砂漠の中に突然このような場所が現れるのが本当に不思議なんです。

未舗装の砂漠を疾走しているので決してアスファルト走行のような快適さはないものの、それを補って余りあるほどの驚きと感動の連続です。単調なように見えて、まったくその逆のものがこのアタカマにあることをその都度感じます。砂漠は何もない場所ではなく、そのひとつひとつのインパクトが強烈なのだと。

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道なき道をいったい何を頼りにして走っているのか、ガイドたちの方向感覚には本当に驚かされました。私も方向音痴ではないと自分では思っているのですが、慣れた彼らの方向感覚はその比ではありませんでした。その驚くべき方向感覚でたどり着いたのが、ハイライトともいえるラグーナ・コロラダです。

車を降りて湖のすぐそばにある小高い丘に登って湖を見渡した瞬間、圧倒されました。私たちが見ているものはいったい何なのか。自分の勝手な想像を超えたものを目の当たりにした瞬間というのは、思考回路が追い付かないというのが正直な感想です。殺伐とした茶色い山並みを背景にして、目の前に広がる湖は赤、白、茶色が入り組み、湖というものからほど遠いような光景でした。でもそれを今この瞬間に目の前にしているのです。そして、その中で無数のフラミンゴが顔を水の中につけながら餌を探しているのです。「生」を寄せ付けないような光景の真っ只中に、確かに生き物の営みがあるのです。今まで何度も言葉を失う風景に出会ってきましたが、ここでもまたそのうれしい強烈な瞬間が訪れたのです。無声有声の感嘆詞を何度発声したことでしょうか。私が個人的に何度も使ってきた表現ですが、“美の暴力”に打ちのめされた、まさにその感覚でした。

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美しい余韻に浸りながら心地よい疲れを残して、この日の村の宿に到着。

さらに翌日、奇岩と砂漠の中の隠れ家のようなオアシスに立ち寄りました。オアシスの岩場にいる住人はずんぐりしたウサギのような容姿をしたゆるキャラを思わせるビスカーチャ。日が当たる岩場で礼儀正しく日光浴をしている姿がなんとも言えませんね。周囲には水辺のあるような気配などまったくないのに、やっと乗用車が通れるような巨大な岩と岩の間を抜けていくと、突然水が豊かな場所に出るのです。高さ10mほどの岩が無数に連なる場所にぽっかりとひらけたまさにオアシスと呼べる場所を散歩しました。ここで出会った人間は一人もいません。ガイドが教えてくれた静かなオアシスを、ビスカーチャと同じように独り占めしながら散歩を楽しみました。砂漠は奥が深いと思わせられた時間でした。その後、砂漠の荒野にこれもまた岩の要塞のような場所が出現します。周囲には似たような光景はまったくないのに、なぜかここだけに奇岩が密集しているのです。誰かがここに集めたようなそんな印象を持たざるをえない摩訶不思議な光景です。

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◆いよいよボリビア・ウユニ塩湖へ

4WDの旅はまだまだ続き、この後は久しぶりに舗装道路に戻ります。ということは、ウユニ塩湖に近づくということでもあります。その前に、列車の墓場、ウユニの塩をお土産として買うことができるコルチャニ村に立ち寄りました。列車はかつてゴールドラッシュ時代にはるか大西洋までいろいろな鉱物を運搬するために使われていたものが、時代の流れで使われなくなり置き去りにされているのです。この汽車に乗っていた人々の目に映る景色はどんなものだったのだろうか、そんなことを考えながら列車の墓場を後にしました。

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そして、今宵の宿はウユニ名物「塩のホテル」。壁から、天井にいたるまで確かにすべて塩、塩、塩です。雨期にはほとんどが日本人宿泊者だとホテルの人は言っていましたが、この時は日本人は私たちのグループだけで、他は欧米人ばかりでした。旅行会社の宣伝方法に大きく影響されるのだと思いますが、日本人は雨期が好きなようで、逆に欧米人には乾季のほうが圧倒的に人気があるとのことでした。

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今回、あえてこの時期にツアーを設定したのにはちゃんとした理由とこだわりがあります。それは、この時期がちょうど雨期と乾季の境目にあたり、雨期の鏡のような湖面と乾季の真っ白な塩湖の両方を楽しめる可能性があるからです。今回はその狙いが見事的中しました。参加した皆様にもそれを楽しんでもらうことができ、ウユニではさらに盛り上がりました。静まりかえった湖面に移る天の川と無数の星、朝焼けと夕焼けのドラマチックなグラーデーション、乾季にしか行けないインカワシと呼ばれる巨大サボテンの島への上陸、真っ白な塩の大地の上でのトリック写真。今回はそのすべてを味わうことができました。参加した皆様にも本当に喜んでいただけたと思います。贅沢な時間を絵にするとしたらこういうことではないでしょうか。




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そしてこれだけは終わりません。この日は、真っ白な塩の海原が眩しいウユニで特別なランチを用意しました。大型のツアーでも、個人のツアーでもなかなか実施しにくいほどよいグループサイズの私たちのグループのためだけのスペシャルなおもてなしです。
見渡す限り、誰もいません。観光地でありながら観光地ではない、そんな空気の中での特別な食事、いや、時間でした。味わっているのは食べものの味ではなく、贅沢な時間の“味”だったような気がしました。
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◆ボリビアの首都ラパスから3つめの絶景レインボーマウンテンへ

感動しっぱなしのウユニでしたが、連泊もあっという間です。その演出をしてくれたガイドたちとの空港での別れはかなり名残惜しいものでした。後ろ髪を引かれながら、空路ウユニから首都のラパスへ。ラパスは世界最高所の首都としても知られている町です。空港からすり鉢状になった市内へと下るロープウェイは、移動手段であると同時に、ちょっとした観光アトラクションです。無数の家屋やビルが隙間がないように密集し、それを見守るように標高6439mの名峰イリマニ山が背後にそびえています。さすがアンデス、スケール感が違います。

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ラパス在住の日本人ガイドさんに市内を案内してもらいながらラパスを観光。高所にいるのは確かですが、普通にしているぶんには特に高所であることをそれほど感じませんでした。ラパスにも1泊したのち、横断の旅はペルーへと移っていきます。
空路降り立ったのは、こちらもまた高所の町クスコ。手早くトレッキングの準備を済ませて移動します。車に揺られること約3時間、ツアータイトルでもうたっている3つ目の絶景ポイント、レインボーマウンテンの登山口に到着です。日本ではほとんど知られていないレインボーマウンテンですが、最近では知名度がかなり上がってクスコから日帰りのツアーがかなり出ています。クスコでもずいぶんその看板や写真を目にするようになりました。欧米人はほぼ100%といってもいいくらいこの日帰りツアーを利用していますが、最高地点は約5000mもあり、おまけにクスコをかなり早朝に出発しなければならいため、体への負担が大きいように思います。当社のツアーではテント1泊で登ります。キャンプ地はとても静かで、星空が最高に美しく、また高所からくる体への負担も少ないのでおすすめです。キャンプ地は4000m以上ですが、極端な寒さも感じることなく温かい手作りの夕食をとったのち、次第に輝きを増していく星空に心を奪われながら明日のことを考えて早めに寝袋の中へ。夜中にトイレに起きたときも星明りが眩しいくらいでした。

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翌朝、朝食をとり谷地形のようになった場所をゆっくり登っていくと、放牧されているアルパカたちがそろってこちらを見ていました。むこうのほうが数が多いので、私たちは完全に見られているという状況でしたが、なにせあの巨大なぬいぐるみのような愛くるしい容姿ですから、息苦しさも忘れて思わずにやけていたかもしれません。アルパカはアンデスならではの、高山病対策かもしれませんね。少なくとも私にはそう思えました。

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登山道は、登るにはまったく苦にならないようなとても歩きやすい道です。登山道というよりもむしろ広大な放牧地帯というほうが適切な描写かもしれません。急峻な地形が多い日本とは明らかに違う道が海外ではよくあります。とは言ってもここはもう4000m以上の場所。足元は歩きやすくても、息は当然切れます。最後に丘のようになったところに登ると、ようやく姿を現したのが皆さんが日本で想像していた縞模様の地層。やや雲が出はじめて日差しが弱くなっていたので、地層の縞模様は晴天時ほどの鮮やかさはなかったのですが、それでも十分カラフルだとはっきりわかる地形を見ることができました。5000mという達成感と、パンフレットの写真で想像していた景色が、今自分たちの目の前に実在するという実感から、暖かな感動が全員の中にこみ上げていました。

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今回それぞれの参加者の期待のポイントは同じではなかったのですが、チリから始まり、ボリビア、ペルーと縦断してきたその遥かな道のりに、時間を共有してきた思いが強く重なったようでした。苦しかった標高5000mへの道のりも、歩き終わった後では、足元に人知れず咲いていたアンデスの花のように、淡い美しさのほうが勝っていたような気がします。景色はもちろんでしたが、それだけではない何かが今回も伝えらえたことにうれしさを感じる旅となりました。それと同時に、そういう思いがいつまでも美しい思い出として皆さんの中に刻まれ続けてほしいと願わずにはいられません。

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●筆者プロフィール●
渡辺和彦:日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡ 総合旅行業務取扱管理者