登山コラム《山記者小野博宣の目》
2019年01月06日 雪の比良山系




雪の比良山系

 滋賀県の琵琶湖西岸に、屏風のように連なっている山々が比良山系だ。京阪神からの便もよく、関西地方の岳人にはなじみ深いだろう。雪の時期であれば、近江八景のひとつ「比良の暮雪」も楽しめる。
 2019年1月、年明けに比良山地に取り付いた。山系南側の権現山(996m)から稜線を北に向かって歩き、ホッケ山(1050m)、小女郎峠、蓬莱山(1173m)、打見山(1108m)を経て、ロープウェイで下山する計画だ。晴れていれば、琵琶湖を一望できる。

杉林の急斜面を登る

杉林の急斜面を登る

 JR湖西線堅田駅からバスで、平バス停へ。山麓のバス停には人っ子一人いない。往時には若狭の国から京都に魚介類を運んだとされる鯖(さば)街道を歩き、登山口に向かった。走り抜ける乗用車のエンジン音を聞きながら、杉林の急斜面を登ってゆく。数センチの積雪量だが、高度を上げるにつれて雪も深くなってゆく。足場は悪くないので、軽アイゼンはつけない。

誰もいない権現山山頂

誰もいない権現山山頂

 2時間ほどで権現山の山頂に到達した。積雪は1mほどあるだろうか。踏み後のない雪面に足を置くと、太ももまで雪に埋まる。山頂は乳白色の雲に覆われて、琵琶湖はまったく見えない。絶景は得られないが、雪上歩行の練習と気持ちを切り替えた。

分厚い雪の稜線を慎重に歩く

分厚い雪の稜線を慎重に歩く

権現山からホッケ山へ向かう稜線で、社も雪に埋まっていた

権現山からホッケ山へ向かう稜線で、社も雪に埋まっていた

 北に進路をとり、ホッケ山と蓬莱山方向へ。緩やかなアップダウンが続く。樹林帯を抜けると、雪が分厚く積もった稜線が現れた。がけ下に滑り落ちないように、ゆっくり慎重に足を置く。ホッケ山山頂では横殴りの風にさらされた。頬が痛いほどだ。雪も吹き飛ばされ、地面が露出しているところもあった。

凍てついた雪の森を下山する

凍てついた雪の森を下山する

 空も薄暗くなってきた。天候悪化が心配されたので、登山行動はここで打ち切った。権現山に戻り、琵琶湖側の登山道に入った。かなりの急斜面に、転がり落ちないように注意深く足の置き場を探した。下山口からJR和邇(わに)駅まで1時間以上アスファルトの上を歩いた。登山そのものよりも、長時間の街歩きの方がはるかに疲れた。登山靴が重い。
 目的を果たせないまま、雪の比良山系登山は終わった。街が近く容易に取り付ける割には、雪が多い。雪山登山の練習にもってこいだな、という印象を持った。
 ただ、安易な冬季登山は戒めたい。雪山と他の季節の山は、装備もまったく違う。雪面を歩くと、かなり体力を奪われる。雪崩や急な天候悪化のリスクもある。雪山という危険地帯に出かける覚悟と、相応の準備が必要なのだ。一方、寒気で引き締まった空気の中を歩く心地よさは格別で、純白に覆われた壮大な景色を見ることもできる。冬ならではの醍醐味だろう。
 比良山系の雪は若狭湾からの雪雲によってもたらされる。その雪深さを十分とは言えないまでも、体験することができた。好天の時を狙って、また挑戦するのもよいだろう。ぜひ冬の琵琶湖を見下ろしてみたい。【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド・小野博宣】

●トイレ●
 JR堅田駅から平バス停のコースを取ると、トイレは同駅が最後になる。今回紹介したルートだと、次のトイレはJR和邇駅となる。注意して計画を立てたい。

●筆者プロフィール●
 1985年毎日新聞社入社、東京社会部、宇都宮支局長、生活報道部長、東京本社編集委員、東京本社広告局長などを経て現在、大阪本社大阪営業本部長。2014年に公益社団法人日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡの資格を取得。同社の山岳部「毎日新聞山の会」会長