登山コラム《山記者小野博宣の目》 2019年4月13日 大江山 大阪・富士登山塾ステップ2




大江山 大阪・富士登山塾ステップ2

 鬼という言葉を考える時、意外に身近な存在であることに気づく。「心を鬼にする」「渡る世間には鬼はなし」といった格言もあれば、清酒「鬼ころし」やおろし金の「鬼おろし」もある。身の回りは鬼であふれているといえるかもしれない。

 その鬼の頭領・酒呑童子伝説で有名な山と言えば、京都府北部の名峰・大江山だ。富士山登頂を目指す「初心者のためのステップアップ 富士登山塾2019」のステップ2が2019年4月、大江山で開かれた。

日本海の雄大な景色に見とれる参加者たち
日本海の雄大な景色に見とれる参加者たち

 参加者26人は早朝、大阪・梅田をバスで出立し、丹後半島の付け根に位置するこの山を目指した。麓(ふもと)に近づくにつれて、笑顔の赤鬼、青鬼の看板や立像が目につくようになった。看板には「ようこそ」などの文字が躍っている。友好的な鬼たちに迎えられて、一行は2時間半ほどで登山口に到着した。標高はすでに740mもある。大江山連山を形成する鍋塚山(763m)、鳩ケ峰(746m)、千丈ケ岳(832m)の山頂を結んで歩く。規模の小さな縦走登山と言えるだろう。

 航空管制施設のある登山口を後にすると、すぐに日本海の雄大な景色が広がった。参加者からは「わぁー」「きれい」と歓声が起きた。春霞の向こうに、白く輝く波頭と紺碧の海原が見渡せた。

アセビ。白い花が愛らしい
アセビ。白い花が愛らしい

 それぞれが自然の名画をカメラに収めた後、鍋塚山に向かう。アセビの白い花に見守られるように砂利や石の道を下る。村野匡佑ガイドが「足元に気を付けて、ゆっくり歩きましょう」と声を掛けた。やがて登山道は登りに。きつい傾斜が続く。風は冷涼なのだが、汗ばんできた。

「登りは必ず暑くなります。1枚脱いでくださいね」。立ち止まり、薄手のフリースを脱ぐ。山登りは重ね着が基本になる。寒ければウインドブレーカーなどをはおり、暑くなれば上着を脱いで調整をする。


鍋塚山の山頂で昼食をとる。青天井がすがすがしい
鍋塚山の山頂で昼食をとる。青天井がすがすがしい

 お椀の様に丸みを帯びた鍋塚山の山頂では360度の視界が得られた。西方に目を転じると、残雪を抱いた山々が見える。兵庫と鳥取県境の秀峰・氷ノ山(1510m)だろうか。目指す鳩ケ峰と千丈ケ岳の山並みも手が届くほどの近さにある。男性参加者は「あそこに行くには下りて、また登るのかぁ」とため息だ。だが、登山の醍醐味は自然の中で、体を動かし、汗を流すことにある。さぁ、出発しよう。

 岩場のある急な下りが待ち構えていた。乾いた砂利道もあった。村野ガイドは「急な場所は直線で降りるより、ジクザグに歩いた方が足にかかる負担は少なくなります」とアドバイスした。皆も真剣な表情で一歩を慎重に踏み出していた。

急傾斜地を慎重に下る
急傾斜地を慎重に下る

広々とした仙丈ケ岳山頂
広々とした仙丈ケ岳山頂

 丹後地方の最高峰・千丈ケ岳の山頂は広々としていて、空が大きく見えた。息をすると、日本海を渡ってきた風の冷気が胸に染みた。火照った体に心地よい。晴天に恵まれて、伸びやかな山行になったと思う。8月の富士山も同じように晴れてほしい、と祈らずにいられない。大江山の鬼たちはこの願いを聞いてくれるだろうか。【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイド・小野博宣】(2019年4月13日登頂)

 【富士山へ向けて5 持ち物その5】あると便利な小物を紹介しよう。富士山の山小屋は一般的に個室などはなく、大勢の人々と枕を共にすることになる。いびきや外を歩く登山者の声、ヘッドランプの灯りが気になる人もいるだろう。それらを防ぐために活躍するのが、耳栓とアイマスクだ。筆者は日常生活ではまったく使用しない小物だが、山小屋や夜行バスの中では大いに役立っている。旅行用歯ブラシなどの日常品と一緒に小物入れに入れておき、ザックの中に忍ばせている。


●筆者プロフィール●
 1985年毎日新聞社入社、東京社会部、宇都宮支局長、生活報道部長、東京本社編集委員、東京本社広告局長、大阪本社営業本部長などを経て現在、関連会社の(株)毎日企画サービス顧問。2014年に公益社団法人日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡの資格を取得。毎日新聞社の山岳部「毎日新聞山の会」会長