まいたびレポート2020年9月29日~30日 
風来人「 巨樹万輪の旅~古の風景が残る会津の名木を訪ねる」
【同行講師:染野豊/樹木医、庭師、全国巨樹巨木林の会理事】

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夏の暑さがいつの間にか過ぎ去り、肌寒ささえ漂う季節になってきた9月の終わり、名木に会うために会津を巡りました。このシリーズもコロナ禍の影響を受け、なかなかツアーが出せず、ようやく1回目をむかえることができたというわけです。
ぐずついた天気が多かった9月でしたが、この日は爽やかな秋晴れ。どんな巨木に会えるのかと期待にわくわくしながら東北道をひた走り、最初の名木、経沢守屋神社へ。

経沢守屋神社の大スギ

猪苗代湖畔の小さな集落のはずれにあるこれまた小さな神社。まわりの田んぼは稲刈りの真っ最中。黄金色の田んぼが秋の訪れを演出してくれていました。神社の入り口にもちょっとした大きな木。神社と同様に境内の木は昔から神様のように大切に守られてきたことがよくわかります。少し苔むした石段を上ると、本堂の横にずっしりとしたスギがお堂を守る兵士のように伸びているではないですか。よく見ると3本のスギが合わさった融合木のようです。このほかにも境内にはイタヤカエデやスギの巨木が何本かあり、昔のまま残されてきたことがわかります。正確な樹齢はなかなかわからないものの、里山で今も神社とともに大切に守られている大スギでした。
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赤井の大イチョウ

2つ目は赤井の大イチョウと呼ばれる巨木です。遮るもののない畑の真ん中に立つイチョウは、まるで北海道の美瑛の光景を思い起こさせます。離れて見ると周りに障害物がないせいか、思うがままに枝を四方に伸ばし、均整のとれた見事な枝ぶりです。イチョウは大きくなると幹の一部がコブになって垂れて、乳房のようになるものがよくあります。そんなことからこのイチョウも“おっぱいイチョウ”と呼ばれているそうです。
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近くに寄ってみると、その堂々とした幹の太さは圧巻です。ご神木のように藁縄がまかれ、風格は十分。太い枝からは乳房のようなコブが垂れさがり、古木であることを物語っています。かつてこのイチョウのすぐ近くには小学校があったようですが、今は校歌がきざまれた記念碑だけが残っています。何百年にもわたり、子どもたちのはしゃぐ声を聞いてきたのでしょう。小学生の声が聞こえなくなった今でも、樹高30m、枝幅30mというほぼ四角形のようなこの大イチョウは、秋空の下でほんとうに気持ちよさそうに枝を伸ばし、今はひっそりとした集落の中に佇んでいました。

鶴ヶ城

この後、会津若松市内の鶴ヶ城を見学。団体の観光客はまだ見かけませんが、小学生の修学旅行の団体で賑わっていました。お土産物屋では、抱えるようにしてお土産をレジへ持っていく光景がとても印象的でした。
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平田の延命ケヤキ

3つ目の木は平田(へいた)の延命ケヤキです。田んぼの中の民家の片隅にあり、見つけるのに少し苦労した名木です。太い幹には巨大な洞ができていて、入り口はやや狭いものの、中に大人が入れるくらいの大きさで、小学生くらいならすぐに隠れられてしまうほどです。
かつては平安寺というお寺があったようで、この場所にはお寺の名前がついていました。ここでも稲刈りの真っ最中。稲を刈るときのあの独特の匂いがあたりに漂い、秋の澄んだ空気の中に懐かしさを運んでくれました。
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高瀬の大ケヤキ

この日最後となる4つ目の木は国指定天然記念物の「高瀬の大ケヤキ」です。観音堂脇の城跡に堂々と根を張っている巨木です。巨大な幹から延びる枝でさえも、1本の木のような太さがあり、その重さのせいで幹から裂けそうになっているのを支柱がささえています。枝だけでもいったいどれくらいの重量があるのでしょうか。何本もの支柱に支えられて立つこのケヤキですが、「わしゃまだまだ朽ちないぞ」と言わんばかりに威厳のある見事な姿を私たちに見せてくれました。巨象のような印象のケヤキでした。
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少しずつ日没も早くなっているうえに、初日でもあるのでこの日はこれで終わりにして東山温泉でゆっくりとお湯につかりました。

御薬園と白虎隊記念館

2日目最初の訪問は御薬園。会津若松市内にありながら、隠れ家的な存在になっている名園です。朝一番の開園と同時に訪れたおかげで、他に観光客もなく朝の太陽が降り注ぐ園内が貸し切り状態。薬草園のほか、大蛇のようにうねる五葉松やアカマツの大木などが植えられ、いくつもの戦乱を無傷でくぐりぬけてきた庭園は昔のままです。講師の染野先生以外は皆さん初めて訪れたようで、秋の訪れを感じながら池泉回遊式の庭園に魅了されていました。
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次に訪れたのが白虎隊記念館と飯盛山。鳥羽伏見の戦いに端を発した戊辰戦争は会津にまで飛び火し、19名の若い青年たちが自ら命を絶った会津戦争はあまりにも有名な史実です。個人的には2度目の訪問ですが、この記念館は個人の方の努力で運営されています。貴重な資料を後世にずっと伝えていってほしいと願うばかりです。

小谷の大イチョウ

この日最初の名木は小谷の大イチョウ。芦ノ牧温泉から近い道外れにあります。抜けるような青空に向かって生命力に満ち溢れた枝を伸ばし、根元に近い幹からはたくさんの「胴吹き」がでていました。そして、下から木を見上げると緑濃い葉の間に無数のギンナンがついていました。匂いはまだないものの、焼いて食べたらおいしいだろうな・・・そんな風に思わせる色づきをしていたのでした。葉が黄金色になり、ギンナンが熟す日もそう遠くはないことでしょう。
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八幡の大ケヤキ

次は八幡のオオケヤキです。途中に大内宿があることで知られる会津西街道を南下していきます。道すがら古民家や道がクランク状に屈曲した「鍵の手」があり、かつて宿場があったことが忍ばれます。会津西街道は、当時、江戸への最短距離であったことから、会津藩主をはじめ米沢・新発田・村松藩などの参勤交代の街道でもあったそうです。そんな街道筋の民家の庭にあるのが八幡の大ケヤキです。大内宿を知っている方は多くても、このケヤキを知っている方はほとんどいないでしょう。その知名度とは裏腹に、かなり衝撃的な大きさでした。推定樹齢は950年というから、この木が芽生えたのはなんと平安時代ということになります。個人宅にこれほど立派な巨木があるということはほんとうにすごいことではないでしょうか。木とは思えないような巨大な幹は、斜めに傾きながら道路におおいかぶさるかのように枝を伸ばし、まさに怪獣のようでした。今回の私の一番のお気に入りとなりました。対応してくれた屋主の方もとてもよい方で、見学に来たことを歓迎してくれました。
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北野神社の大スギ

衝撃的な大きさのケヤキとの出会いを後に、さらに南下して昼食をはさんだ後は北野神社の大スギです。街道沿いの集落から畑の間の農道を歩いていくと、小さなお堂の後ろに巨大なスギ。樹高は50mとかなり巨大なスギで、染野先生曰く横綱級だとか。威風堂々とした太い幹から延びる枝は、まるで木が生えているかのように太く立派なものです。ちなみにこのスギのすぐそばには、ホウノキの巨木までありました。まったく知られていなくともこれほどの巨木があちこちにあるということにまた驚かされました。
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古町の大イチョウ

最後は古町の大イチョウです。小学校の校庭にある巨木ですが、学校はすでに移転して今は使われなくなったのか、校舎だけが残り校庭には短い草が生えている状態です。それでもイチョウは立派に枝を伸ばし、福島県随一の巨木として成長し続けています。10月下旬になると黄金色に色づき、静かな南会津に冬の訪れとともに最後の彩をそえてくれるのです。
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今回、会津にある8本の名木を見てきました。同じ種類の木でも、年輪を重ねた老樹はそれぞれにとても個性的です。なんといっても人間とは寿命が桁違いですから当然でしょう。ひとところにとどまり、数百年、あるいは数千年も生きられる木を見ていると、かつての光景が木を通して見えてくるよう思えます。ありえない話ですが、そういう楽しみが巨樹めぐりにはあるような気がします。それは木が生きているからに他なりません。
どれくらいの巨木になると、木と思えなくなるのか。そんな不思議な疑問を感じました。
これからも全国各地の巨木を、樹木医でもある染野先生のツアーでお届けしていければと思っています。

写真・文:渡辺和彦