まいたびレポート2020年12月9日 
風来人「 樹木医と訪ねる巨樹万輪の旅~常陸の里の名木めぐり」
【同行講師:染野豊/樹木医、庭師、全国巨樹巨木林の会理事】

染野先生の巨樹万輪シリーズ
次はこちら⇒『千葉北部の名木めぐり』1月20日(水)

9月の会津に続き、染野先生の巨樹ツアー2回目となりました。
今回は茨城の北部、常陸です。都道府県魅力度ランキングでいつも不名誉な順位を賜っている茨城県ですが、そんな順位も跳ね飛ばすくらい常陸の里にはとても心癒されるのどかな里山の風景が広がっていました。いまだに目にする茅葺の屋根、田舎ならでは蔵つきの民家、どこからともなく漂う焚火の薫り、これらも立派な魅力です。こんなのどかな場所だからこそひっそりと長生きをする巨樹たちがあるのです。むしろ観光地でなくて良かったと今回参加の皆さんは思ってくれたのではないでしょうか。

常磐道をひた走り、最初は常陸太田市の若宮八幡宮。境内は居並ぶケヤキたちはどれもこれもご神木にふさわしい大きさ。堂々とした幹でしっかりと地面に立っています。案内板にもケヤキ群と書かれていました。少し小高くなった神社はかつてのお城跡。ちょんまげを結った武士にも見上げられて大きくなったのでしょう。こんなにたくさんの巨樹に守られた神社は地元の宝ですね。

経沢守屋神社の大スギ
若宮八幡宮のケヤキ

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菊池家の大モミジ
2本目は、北上して菊池家のモミジ。名前の通り個人宅の敷地ぎりぎりにあるモミジの巨木です。ツアー中に写真をうっかり取り忘れてしまったので、代わりに少し前の紅葉の写真を載せさせていただきます。染野先生曰く、モミジの大木は非常に珍しく、推定樹齢300年と言われるほど大きくなっているこのモミジはかなり貴重だそうです。スギやイチョウ、クス、シイなどはもっと巨大な幹になるので、大きさだけではインパクトは少ないですが、モミジとして見るとやはり一級品に間違いありません。幹に立派な皺をきざみながら生き残って堂々とした姿を目の前にすると「よくここまでご無事で」と敬意を表したくなります。道路のすぐわきでしかも周囲は藪になって少し窮屈そうですが、切らずに生かしてくれた菊池さんにもお礼を言わなければなりませんね。

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さて、ちょうどお昼の時間になり、植物と違って光合成をするわけにはいかない私たちは旅館での郷土料理。ゆずの皮を使った上品な料理や、地産のこんにゃく、ほんのり温かさが残る鮎の塩焼きなど、温かいものはちゃんと温かく、冷たいものは冷たくいただける料理で、皆さんからも「おいしかった」の言葉をたくさんいただきました。
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猿喰の大ケヤキ
お腹もいっぱいになったところで、次は「猿喰のケヤキ」というなんとも奇妙な名前のケヤキです。嫌な想像をしてしまいそうですが、昔の地名からつけられた名前のようです。道が狭いため、バスを降りてから歩くこと約10分。目の前に見えたのは、少し傾きかけた太陽の光を浴びて白い幹を浮き上がらせ、ケヤキとは思えないほど四方に枝を伸ばした立派なケヤキの大木。歩く価値十分。モミジの木と大きな岩を抱えこみ、人目につかない山里に他佇んでいるのです。紅葉の頃にはモミジとケヤキの両方の紅葉をあたかも1本のようになった木で見ることができます。その時期は過ぎていましたが、葉が落ちたことで四方に生き生きと枝分かれして、毛細血管のようにさらに細い枝を伸ばす状態をよく見ることができるのです。
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ご参考までに葉があるときの状態は以下のようです。

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法龍寺の大イチョウと大カヤ
4つ目は法龍寺の大イチョウと大カヤです。小さな集落の中にあるお寺の境内に、本堂よりもはるかに立派なたたずまいで立ち尽くす2本の巨樹。巨大なイチョウは大量の葉をあたり一面に落として地面は見えず、まるでふかふかの毛布を敷いたようでした。隣に並ぶ大カヤの分までその葉を落として2本一緒に里山の厳しい冬をむかえる準備をしているかのようです。山と同じように季節を変えて、芽吹きの頃にまたお目にかかりたい素晴らしい2本の巨樹です。
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吉田八幡神社の三浦スギ
最後は、吉田八幡神社の三浦スギと呼ばれる大スギです。石の鳥居をくぐるともう2本の大スギが目に入ってきます。石段の左右にも見事な太さのスギが立ち並んでいるので、やはり古い神社だということ想像できます。苔むしていかにも歴史を感じさせる石段を上がると、さらに近くに見えてきた2本のスギは仁王立ちしてまるで阿形と吽形のようです。その奥にある本殿を守るようにそびえ、まさに守護神です。地中から出ている根も極太の大蛇のようにうねっていました。こんなスギは絶対に切れないだろうと思います。
高速道路からも離れた常陸の里の名木めぐり。賑やかなだけが魅力ではない、心癒されるあっという間の5か所の巨樹でした。どれもまた季節を変えて会いに来たいと思います。
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文と写真:渡辺和彦