安心安全富士登山2021机上講座
特別講師 太田昭彦氏(YouTubeダイジェスト版)

 登山初心者の中高年が富士山(3776m)を目指す「安心安全富士登山2021」の机上講座が2月23日、約80人の参加者を集め、東京都千代田区内で開かれた。ベテラン山岳ガイドの太田昭彦さん(59)が、富士山に安全に登るための準備などについて講演した。

-YouTubeダイジェスト版-


 ガイド歴25年の太田さんは、年間200日も山に登るという。富士山には17歳の時に初めて登ったと話す。「美しいご来光が今も印象に残っています」と語る。「登ったことなどはすっかり忘れましたが、太陽の美しさは忘れられない」。太田さんの言葉に、参加者はうなずいた。
 さらに、「山と街では歩き方が違います」という。「都会では、かかとから地面につき、つま先で蹴り上げて歩きますね。大股で歩くこともあります」と会場を歩き、都会での歩き方を実演した。「しかし、山は都会のように道は整備されていません。木の根っこや岩で凸凹しています。そんなところでは、都会の歩き方はできません」と述べた。「山には山の歩き方があります。それは、足の裏全体をベタッと地面につけます」。登山靴を右手に持ち、左手の手のひらに靴を置いた。「こんな風にベタッと地面に置きます」。具体的な実例に参加者は大きく頷き、メモを取る人もいた。
 また、富士山の気温に触れ、「東京で30度でも、富士山の山頂は数度になります。冬と同じです」と語った。そんな富士山での服装については、「重ね着がポイントになります。薄手のシャツやフリースを重ね着して暑ければ脱いでいきます。また、雨具を着てもよいでしょう」と話した。
 登山靴についても、「くるぶしを覆うハイカットの登山靴をはきましょう」と言う。「富士山は岩場があり、くるぶしを守らないと怪我をすることもあります。ローカットの登山靴ではなく、ハイカットを選んでください」と解説した。
 会場の外では、登山道具店「石井スポーツ」登山本店の協力でザックや登山靴、雨具などを展示した。同社の社員らが道具について説明した。参加者は登山用具を手に取り、「このリュックサックの容量はどれくらいですか」「登山靴は底が固いですね」などと話していた。【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡ・小野博宣】


【コラム 中高年と富士登山】

 富士登山の核心部(登山時の危険地帯や通行に注意を要する箇所を指す)は、下山にある。富士山は登ることよりも、下りる方が難しく、危険なのだ。小石と砂が多い急傾斜の坂道を4時間以上歩き続けなければならない。5合目まで風景も変わらず、退屈で注意散漫となる。そんな時に転倒などを引き起こしやすくなる。
 多くの中高年者は無事に登り、下山する。だが、自力下山ができなくなる人も毎年いる。登るだけで体力を使い切ったり、ひざ痛になったりする。そんな状態では、長く危険な下山道を無事に降りることはおぼつかない。
 私たち登山ガイドは歩行困難になった方がいると、ショートロープという技術を使い、下山していただくことになる。歩けなくなった方の腰に転倒防止用のロープをつけ、ガイドが後ろから引っ張りながら歩いていただく。そうした方はゆっくり下りることになるのだが、先に下山した人たちを長時間待たせることになる。
 中高年者が富士山に登り、無事に下山するためには、体力と登山の技術を身に着け、専門の装備を使いこなすことが大切だ。そのためには、毎月2回以上は山に登りたい。講座「安心安全富士登山」に参加するのも良いだろう。中高年が富士山に無事に登り、自力下山するためには練習あるのみだ。
20210130山からの富士山


●筆者プロフィール●
 1985年毎日新聞社入社、東京社会部、宇都宮支局長、生活報道部長、東京本社編集委員、東京本社広告局長、大阪本社営業本部長などを歴任。2014年に公益社団法人日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡの資格を取得。毎日新聞社の山岳部「毎日新聞山の会」会長


◆関連ホームページ
まいたび®︎毎日新聞旅行/日本の山旅-安心安全富士登山特集
https://www.maitabi.jp/mt_japan/tokusyu5.php
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