登山コラム《山記者小野博宣の目》「おいしく楽しく山ごはん in 丹沢・大野山」の下見へ!フードコーディネーター佐々木恵美さんと行く

 アウトドアの醍醐味のひとつに、野外での食事がある。とりわけ材料を担いで登り、限られた食材と道具で作る食事は格別だ。ごく普通の味付けなのに、とても美味しく感じる。

 まいたび(毎日新聞旅行)は、新しい試みとして屋外調理をテーマにしたハイキングツアーを計画している。フードコーディネーターであり、国内各地の高山を歩いている佐々木恵美さんを講師に招いて、山歩きと屋外での料理の楽しさ、美味しさを追求する旅となる予定だ。

 その下見を兼ねて、神奈川県山北町の大野山(723.1m)を歩いた。JR御殿場線の谷峨駅前で、佐々木さんと落ち合った。ここから大野山山頂までは2時間ほどの距離だ。のどかな田園風景の中を歩き、やがて登山道に入ってゆく。足元には、淡い青色のスミレの花が咲いていた。春は確実に近づいている。
三角屋根の谷峨駅
三角屋根の谷峨駅
登山道のテッポウスイセン
登山道のラッパスイセン

 山道が傾斜を増すと、牧草地帯に出た。後ろを振り返れば、谷峨駅のある辺りが箱庭のように見える。天気が良ければ、富士山がくっきりと見えるのだが、薄曇りの日でそれは望めない。やがて傾斜は緩やかになり、東屋(あずまや)のある山頂に到着した。相模湾が正面に見え、振り返れば丹沢湖を望める。なんとぜいたくな眺望なのだろう。
大野山山頂
大野山山頂


大野山山頂から丹沢湖の眺め
大野山山頂から丹沢湖の眺め

 東屋に陣取り、早速調理を開始した。献立はトマト味のショートパスタ、コーンスープ、フレンチトーストの3種類だ。私も指導通りに調理をすることになった。
 佐々木さんがストーブ(携帯用ガスコンロ)を組み立て、アウトドア用の小鍋を火にかけた。沸騰させたお湯にショートパスタを投入するかたわらで、コーンスープ、フレンチトーストの準備を進めた。20分足らずで3つの料理が出来上がった。

フードコーディネーターの佐々木恵美さん
フードコーディネーターの佐々木恵美さん

 私はといえば、ショートパスタはやや硬めの仕上がりとなった。コーンスープもパスタのゆで汁を入れ過ぎたせいか、味が薄い。自分で食べるのは良いが、人には勧められない。佐々木さんは「ショートパスタは、ゆで過ぎてもおいしいですよね。普通のバスタに比べて、少々失敗してもおいしくいただけるから使いました」とフォローしてくれた。
 また、コーンスープにとろみを付けるためにマッシュポテトを入れ、バニラアイスにパンを浸してフレンチトーストとした。食材の意外と思える使い方に、私は驚きの連続だった(料理に疎い私が知らないだけだと思うのだが……)。
トマト味のパスタ(手前)とコーンスープ
トマト味のパスタ(手前)とコーンスープ

 フレンチトーストは佐々木さん自らが作ってくれた。普段は甘いものは食べない私だが、「おいしい、おいしい」と何度も口にしてしまった。思い出したのは昨秋、南アルプスで幕営した時のことだ。朝食のためにフレンチトーストを作った。フランスパンを手で無造作にちぎり、かき混ぜた生卵にくぐらせて、油で焼いた。味付けは、塩を好みで振りかけた。フレンチトーストというより、「玉子まみれの焼きパン」といった方がいいものだった。これはこれで美味しいのだが、バニラアイスのフレンチトーストに比較すると、何とも武骨だ。佐々木さんは「パンは何でもいいんですよ。フランスパンでも、クロワッサンでもできます」と話してくれた。
ぶどうパンに液状のバニラアイスをかける。フレンチトースト作製中
ぶどうパンに液状のバニラアイスをかける。フレンチトースト作製中

 佐々木さんの山ごはんの特徴は、台所にある材料を使うことにある。よそ行きの食材はまったくない。また、パスタのゆで汁をスープに再利用するなど無駄もない。山中でゆで汁や食べ残しを廃棄することは自然保護の観点から許されない。だから、工夫されているのだろう。手際の良さも場数を踏んできた証しと拝察した。身近な材料で、美味しい料理を素早く作る。これもアウトドアを楽しく過ごすための技術だろう。私の山料理のレパートリーも、佐々木さんのおかげで増えた。今度は私がみんなを楽しませたいと思う(その前に練習が必要なのは言うまでもない)。

 なお、詳細なレシピと材料は、山での調理をテーマにしたツアー「おいしく楽しく山ごはん in 丹沢・大野山」が催行された後に公開したい(荒天で中止となった場合もツアー催行予定日以降に公開します)。【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡ】
 

☆まいたびからのお知らせ
佐々木恵美さんと山歩きと調理を楽しむ日帰りツアー「おいしく楽しく山ごはん in 丹沢・大野山」は、2021年4月25日(日)に予定しています。参加者を募集しています。ツアーの詳細は、まいたびのホームページをご覧ください。旅行番号はM4340 


●筆者プロフィール●
 1985年毎日新聞社入社、東京社会部、宇都宮支局長、生活報道部長、東京本社編集委員、東京本社広告局長、大阪本社営業本部長などを歴任。2014年に公益社団法人日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡの資格を取得。毎日新聞社の山岳部「毎日新聞山の会」会長