密度濃い自然が広がる登山道
「狩場山と余市岳 北海道の2つの三百名山に登る」ツアー同行記(M1024)


<自然が濃い狩場山3>
狩場山。標高1520m。北海道、道南最高峰、三百名山のひとつ。
新千歳空港からは、支笏湖、洞爺湖、ぶなの北限地帯である黒松内町を抜け、釣り人に有名な島牧村へと日本海まで西に走ること延々3時間。道南とはいえ、かなり奥まった場所に位置し、アクセスしにくい山だ。
9月半ばのよく晴れた平日、北海道の自然好きな方々や三百名山を目指す方々16名は、東京からほぼ1日かけ、麓の宿、千走川温泉旅館へとたどり着いた。
山の麓にぽつんと立つこの素朴な宿は、明治時代から温泉宿として地元の人々や釣り客に親しまれてきたとのことで、掛け流しの良いお湯が景気良くじゃんじゃんと出ている。
2代目ご主人の温かいおもてなしを受け、長旅の疲れは吹き飛んでしまうような、そんな宿。

写真01_千走川温泉。いいお湯です。
千走川温泉。いいお湯です。


翌日、日の出とともに、バスでくねくね林道を上り、登山道へと向かう。
頂上に向かう道は4つあるが、今回は一番短くてポピュラーな千早川ルート4キロ、頂上までコースタイム3時間のルートを歩く。
北海道ならではの緊張感は、ヒグマの存在だ。先頭を歩くガイドは熊スプレーを携帯している。
後ろに続く私たちも、濃い茂みとなっている笹薮からのっそり出てくるかもしれないヒグマと会わないよう、最大限の気配を出し、注意しながら歩いていく。
いつだったか昔読んだ本に、「夜、完全に熟睡できる動物は、文明社会で生活している人間と、熊、ライオンぐらいだ。他の動物は、天敵の気配を常に感じながら決して熟睡はしない」とあった。
北海道の山、ヒグマのテリトリーをドキドキしながら歩く私たちは、今や、かよわいウサギと一緒。
耳を澄ませながら、野生動物の気配を気にしながら歩くとき、なんとなく、脳の奥底に残っている動物としての勘が動き出すような、そんな気分にいつも襲われる。

写真02_登山道に鳴り響く熊鈴
登山道に鳴り響く熊鈴


写真03_ぐんにゃり曲がった岳樺が行く手を阻む
ぐんにゃり曲がった岳樺が行く手を阻む


写真04_「ぶどうまいまい」がお出迎え
このあたりに多い真っ黒なかたつむり「ぶどうまいまい」がお出迎え


日本海からの強風と大雪でぐんにゃり90度近く曲がってしまっている岳樺の幹が登山道を塞ぐ。
「頭気をつけて!「足元すべるよ」と、お互いに声をかけながら、アスレチックゲームのように、岳樺をくぐったり跨いだり。
標高1000mを越したあたりで森林限界を越え、視界がパーンと開けるその時に現れる景色は最高だ。自然がむんむんと濃いのだ。
ただただ広くて、人工物なんてどこにも見当たらず、自分のちっぽけさを実感し、ちょっと心細くなってしまうような、広大な風景。
「これが北海道だよね」と、前を歩くメンバーの声が聞こえてきて、そうそう、と小さく肯く。
頂上付近は真っ黄色な草紅葉が美しく、夏シーズンの短さに胸が切なくなるような、秋まっさかりの景色が広がっていた。

写真05_狩場山頂上にて
狩場山頂上にて 


写真06_草紅葉、人工物見当たらない山々
草紅葉、人工物見当たらない山々


写真07_頂上近辺は黄色の大地
冬はそこまで来ている。頂上近辺は黄色の大地


ちょっと不便で、整備しきれていなくて(または、整備するスピードよりも自然が成長するスピードの方が凌駕していて)、道標もあまりなく、途中、他の登山者とすれ違うこともほとんどない(むしろ動物に会う確率の方が大きい)、静かでワイルドな山。
ちょっと癖のある二百、三百名山は、人が多く集まり、華やかで整備されていて歩きやすい百名山とは、また違う楽しみがあるなあ、巨大な倒木に思い切り頭をぶつけながらも、そんな山を歩けることが嬉しく、ついニヤニヤしてしまうのだった。

<グループ旅行ならではの楽しさ、それはワンチーム>
山だけではなく、山に向かう林道も手強い。
勢いよく四方八方に枝を伸ばす路肩の木々。高の高いバスが通れない箇所では、男性陣が率先してバスを降り、力を合わせて枝をどかす。
車内の女性陣は拍手喝采。小さい出来事ではあるけれど、ちょっとした困難を力を合わせて乗り越え、チームとして皆の気持ちがきゅっとまとまったような、グループ旅行の良さを感じた瞬間だった。

写真08_皆で力を合わせて解決
行く手を阻む巨大な枝も、皆で力を合わせて解決

<北の大地は秋真っ盛り>
翌日に登ったキロロスキーリゾートの奥にある余市岳(札幌最高峰)は、町から近いということもあり、地元の人たちにも親しまれている登山道。
ウラジロツツジ、ツバメオモト、ブルーベリー、ゴゼンタチバナ、ナナカマド…夏の間、可憐な花で目を楽しませてくれた植物たちは、今は美味しそうな色の可愛らしい丸い実へと姿を変えていた。

写真09_余市岳山頂へ続く道
余市岳山頂へ続く道


写真10_ななかまど紅葉の中を進む
ななかまど紅葉の中を進む


写真11_うらしまつつじ群生地
うらしまつつじ群生地では、周囲に甘い香りが漂っていた


写真12_つばめおもとの群青色の実
つばめおもとの群青色の実


写真13_舞鶴草は可愛らしい赤白ツートンカラー
舞鶴草は可愛らしい赤白ツートンカラー


<北海道なので食事への期待は大きい>
美味しいご飯は翌日歩く活力の素。地消地産の、作り手の温度が見えるような食事が嬉しい。
海に近い初日では、旬の花咲蟹始め、ホタテ、メバル、海の幸が豪快に食卓に並び、思わず歓声があがる。

写真14_花咲蟹が今晩の食卓の主役
花咲蟹が今晩の食卓の主役


2日目に宿泊した岩内町は、ビールに使う野生のホップが発見された場所とのこと。
香り高い地ビールに、宿が用意してくれた本物のホップを浮かせ、お代わり自由なイクラ鮭ご飯に舌鼓。

写真15_北海道はビールも美味しい
北海道はビールも美味しい


<おまけ>
今回の旅では、日々方向を、趣を変えながら、積丹半島が姿を見せてくれました。
初夏に登った積丹岳、来年はツアーで皆様とご一緒できたら嬉しいです!

写真16_夕日に染まる積丹半島
宿のテラスより。夕日に染まる積丹半島


写真17_遠くに見えた積丹方面
余市岳に登る途中、遠くに見えた積丹方面


<文章・写真>
添乗員/青崎涼子
通訳案内士(英語)、JMGA認定登山ガイド。
ここ10年は、海外のトレイルを日本の方と、日本のトレイルを海外の方と歩いてきましたが、現在は海外旅行が止まってしまったため、日本の良さを再発見する日々です。
日本であれ海外であれ、大自然が見せる美しい一瞬の表情に出会う時間を、多くの方と共有していきたいとの想いで今日も日本のトレイルを歩いています。