錦燃える山肌、神の絨毯を歩く
「焼石岳と栗駒山」ツアー添乗記
山粧う、とは俳句の秋の季語だが、こんなにこの言葉が似合う山はない。初めて出会う秋の栗駒山は、完璧に錦色に化粧した姿で、どっしりと優雅に佇んでいた。
9月28日
岩手県側の須川高原温泉を出発し、最初は青空で始まった登山は、頂上に近づくにつれ雲の中に入ってしまった。うっすらと白いモヤの中、見通しのきかない時間がすぎる。
登山道脇のナンゴクミネカエデは眩しいオレンジ色で揺れ、葉が落ちて枝に残る真っ赤なナナカマドの実は、早くも冬の気配すら感じさせる。
そう、近くは十分にきれいなのだが、できれば「神の絨毯」といわれる山肌全体を見渡したい――。
と、思いながら2時間、あっというまの頂上だった。
頂上では真っ白な背景とともに、登頂記念写真を撮り、強風で体温が奪われていくため、早々に下山すること…およそ10分。山の神様は、とうとう微笑んでくれた。
それまで山肌を覆っていた雲が徐々に取れ始め、空には青空が戻り、太陽の光の下、「神の絨毯」が全貌を顕す。
オオ!と広がる歓声。「ああ、これがみたかった……」
「神様いるのかしら。ここで晴れてくれるなんて」という声とともに、カメラのシャッターを切る参加者。
太陽の光の下、キラキラと輝く錦色の山肌は本当に見事で、世の中にある芸術っていうのは、こういう自然の見せる美しさを表現しようとしたものなのだなあと思わせた。こんな紅葉は初めてだ。なんたってカラフルなのだ。ナンゴクミネカエデの蛍光オレンジが華やかに、ミネカエデのペールイエローにコシアブラはレモンイエロー。サラサドウダンやナナカマド、ハウチワカエデの少しずつ違う赤。
その間をハイマツと笹の緑色がリズムをとる。
遠く東栗駒の方を見ると、ダケカンバの白い幹がアクセントになり、これまた違う表情を見せてくれる。
京都の呉服屋のショーウィンドウで見かけた、錦糸の着物を思い出させるような秋の色たちが、なだらかな山肌を覆い尽くす。
前日訪れた静かな焼石岳とは対照的に、老若男女、ハイカーからふらりとやってきた観光客まで、懐深く受け入れてくれる感じも良い。
最後に、これを読んで「よし、来年はぜひ行ってみよう!」と思われた方へのアドバイス。
頂上に辿り着くまでの道は長くはないですが、地元ガイドの林さん曰く「皆に踏まれ、よく練られた上質な泥」や、滑りやすい石や朽ち果てた木道が続く、地味にチャレンジングな登山道ですので、しっかりグリップのきく靴に泥除けスパッツ、最後に靴を洗うためのタワシ持参がお勧めです!
<文章・写真>
添乗員/青崎涼子
通訳案内士(英語)、JMGA認定登山ガイド。
ここ10年は、海外のトレイルを日本の方と、日本のトレイルを海外の方と歩いてきましたが、現在は海外旅行が止まってしまったため、日本の良さを再発見する日々です。
日本の紅葉はスバラシイ!10月もカラフルに色づく山を見に、まだまだ忙しく動き回ります。