登山コラム《山記者小野博宣の目》
フードコーディネーター佐々木恵美さんと行く「おいしく楽しく山ごはん in 丹沢・大野山」

 山頂で食べるご飯は、おいしいものだ。とりわけ手作りの、温かな食事ならなおさらだろう。フードコーディネーターの指導の下、山ご飯を作るツアー「おいしく楽しく山ご飯in丹沢大野山」が2021年10月31日、神奈川県山北町の大野山(722m)で開かれた。

 参加者8人は午前9時過ぎに、JR御殿場線谷峨駅前に集合した。フードコーディネーターの佐々木恵美さんが「おはようございます。山ご飯を楽しみましょう」と声をかけた。駅近くのつり橋を渡り、30分ほどで山道に入った。

地元の彫刻家のチェーンソーアートが登山道
地元の彫刻家のチェーンソーアートが登山道のあちこちに設置されていた

 赤く可愛らしいミズヒキや淡紫色のノコンギクが咲く道を、じっくりと登りつめた。やがて登山道の両側にススキの穂が揺れるようになった。晴れていれば、山波の向こうに富士山が鎮座しているのだが、雨模様で展望は望めなかった。休憩を挟み、約2時間後には大野山山頂に到達した。山頂の東屋の軒先をお借りして、早速山ご飯作りに取り掛かった。

佐々木恵美さん
佐々木恵美さん

 参加者がそれぞれのストーブ(登山用の携帯コンロ)を取り出した。この山ご飯のために新たに購入した方もいた。「まず『トマトソースのパスタ』を作ります。パスタの量が多いので、食べられる分だけゆでてください」「水はパスタが浸るくらいでお願いします」。佐々木さんが声をかけてゆく。参加者はコッヘル(鍋)にパスタとマッシュルームを入れて、水を注いだ。「9分くらいゆでてください」。ストーブの扱いに慣れず、点火できない人も。原因はガスカートリッジとバーナー部分の金具の接続が甘く、ガスがうまくバーナーに流れなかったためだ。もう一度、カートリッジとバーナーの金具を締め直し着火ボタンを押すと、「ボッ」という音とともに赤紫の炎が揺らめいた。少しゆでた段階で、ツナとトマトペーストをコッヘルに追加で投入し、塩コショウで味を調えて完成した。肌寒い山頂で、温かな食事はうれしいものだ。ほのかな塩味もトマト味に深みを与えてくれた。皆が「おいしい」と笑顔だ。
DSC_9329分かりにくいが、水はひたひたに入れる
分かりにくいが、水はひたひたに入れる

ショートパスタに、マッシュルームを入れた。
ショートパスタに、マッシュルームを入れた。この状態で点火する

DSC_9336ストーブで、ショートパスタをゆでる
ストーブで、ショートパスタをゆでる

DSC_9339ショートパスタをゆでる。左下は豆乳コーンスープ
ショートパスタをゆでる。左下は豆乳コーンスープ

 さらに、「コーン豆乳スープ」に取り掛かった。こちらは乾燥したマッシュポテトの素を使うのがポイントだ。常温保存ができる無調整豆乳を使うのも便利この上ない。マッシュポテトの素をコッヘルに入れて、ダマにならないように混ぜながら豆乳を入れてゆく。さらにコーンとコンソメを入れ、点火ボタンを押した。ゆっくりかき混ぜていると、湯気が立ち上った。とろみのついた豆乳スープは優しい味に仕上がった。筆者は少し甘く感じたので、塩コショウを追加した。佐々木さんのアイデア料理に、参加者は「簡単なのに、とてもおいしい」「材料は軽いものばかりだから、持ち運びも楽」と感心した様子だった。

DSC_9350山ご飯を作る参加者の皆さん
山ご飯を作る参加者の皆さん

 佐々木さんは、デザートの「キャラメル焼きリンゴ」をフライパンで手早く作って、参加者にふるまった。キャラメルの甘さとリンゴの酸っぱさが口中に広がった。山中で温かなスイーツを食べられるとは、なんとぜいたくなことだろう。筆者の山ご飯と言えば、インスタントラーメンを作るのがせいぜいだった。それもとても美味しいのだが、手をかけた山ご飯には笑顔の輪が広がる。山ご飯を目的にしたハイキングも良いものだ。【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡ・小野博宣】
 

☆まいたびからのお知らせ
山ご飯を楽しく作るツアー「おいしく楽しく山ごはん」第2回(2021年12月12日(日))は、箱根の浅間山(802m)で、「ほかほかひとり鍋」などに挑戦します。ぜひ、山ご飯のレパートリーを広げましょう。



●筆者プロフィール●
 1985年毎日新聞社入社、東京社会部、宇都宮支局長、生活報道部長、東京本社編集委員、東京本社広告局長、大阪本社営業本部長などを歴任。2014年に公益社団法人日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡの資格を取得。毎日新聞社の山岳部「毎日新聞山の会」会長