「紅葉の摩周屈斜路トレイル踏破」ツアー同行記


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MKT トレイルサインは湖の青。

山の頂上を踏む「登頂」が一つの文化なら、ポイントからポイントへ水平に移動していくロングトレイルという旅の仕方も、また一つの文化だ。アメリカで始まったロングトレイルカルチャー、日本では、長野と新潟の県境を走る信越トレイルが有名だけれど、昨年、北海道の道東に「摩周屈斜路トレイル44キロ」が開通した。
このトレイルの特徴をざっくりまとめてしまうと、屈斜路、摩周カルデラ、火山が作り出した景色を存分に味わえる44キロ。今年のまいたびの新コースに、紅葉真っ盛りの10月下旬、現地在住のネイチャーガイドとともに歩くツアーに同行した。


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地図


屈斜路湖、摩周湖のある「阿寒摩周国立公園」へは、今回のように東京から行く場合、釧路または女満別空港へ飛び、そこから車で1時間畔ほどで着く。朝一番で羽田を出れば、昼にはスタートできる。

初日は、コタンの湯から我々の宿となる屈斜路プリンスまで、和琴半島を経由して歩く。
シベリアから2週間かけて飛来してきたオオハクチョウの声がBGM。湖畔から流れ出る釧路川源流にはゆったりとカヌーで川下りをする人々。


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護岸されていないゆったり釧路川はカヌー下りで有名


「ちょっと寄り道になってしまうけれど、特別な場所だから」とガイドの土屋さんが案内してくれた和琴半島は、屈斜路湖の南岸にぴょこっと飛び出ているる小さな半島で、地熱の高さから、ミンミンゼミがいたり、マダラスズというコオロギが冬も活動していたり、誰でも入れる温泉が右に左に湯気を立てている。今回は嬉しいことに、イタヤカエデやハウチワカエデの紅葉の具合がどんぴしゃりで、午後遅くの柔らかに差し込む木漏れ日のなかを歩くのは、なかなかに幸せな時間だ。


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和琴半島は紅葉真っ盛り


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和琴半島展望台「オヤコツ地獄」から。
水深120mの吸い込まれるようなブルーの水をたたえる屈斜路湖


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sup に乗った男性が静かに湖を楽しんでいた


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開放的な和琴温泉。ぷくぷくと温泉が沸いているの見えますか?


湖畔のホテル屈斜路プリンスでは、湖に浮かぶ満月、翌日の朝日の時間が見事だった。
「私の部屋からは、エゾリスが木から木へ飛び移っているのが見えたわよ」とおっしゃるお客様も。周囲の自然、肌にやわらかい温泉、美味しい北海道産の食事で英気を養う。


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早朝、ホテル脇の湖畔から。朝靄の屈斜路湖(田久保様撮影)

翌日はコタンの湯から北上し川湯温泉へ18キロの道のり。
コタンの湯から池の湯までは、昔アイヌの人たちがお風呂に入るために日常歩いていたという旧道を歩く。ふかふかの落ち葉の上を歩きながら、この日のガイド萩原さんから、ミズナラとカシワの葉っぱやどんぐりの違いも解説してくださり、秋の森歩きは楽しさを増す。

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アイヌの人がお風呂入りに歩いた古道を。


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ネイチャートーク聞くのも楽しい。かしわとみずなら。


池の湯、砂湯と休憩場所ごとに温泉があるものだから、その度に、靴を脱ぎ、足湯を楽しめるのが最高だ。(次回参加される方は、バックパックに足拭きタオルをお忘れなく!)。さらに、今回はバスがサポートカーとして、行く先行く先に先回りしてくれたため、背負って歩く荷物はぎりぎりまで軽くでき、その日の体調によっては、希望すればバスで区間スキップもできるのが心強くありがたい。

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池湯温泉、最初は遠巻きに見ている皆さん

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砂湯温泉、やっぱりいろいろ体験してみるのは楽しいもの!

屈斜路湖を離れ、次の見所は、硫黄山がつくりだすつつじが原遊歩道。昔からのひなびた温泉街という佇まいの川湯温泉から遊歩道へ入っていく。標高100m程度なのに、硫黄山の火山ガスや強酸性の土壌は、不思議な植生を生み出している。それまでの針広混交林から、(高山に生えるはずの)ハイマツとイソツツジだけが茂る、そして場所によっては何も生えていない景色が広がるのが不思議だ。遠くに、新雪を乗せてキラキラと輝く知床半島の斜里岳が見えた。背の高い木がない景色は、水平に、横に横に広がる線だけが強調されて、遠くアリゾナの砂漠に来たような、別の惑星にいるような、不思議な光景だった。


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川湯温泉は歴史ある湯治場。強酸性のお湯です。


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つつじが原。標高100mのはいまつゾーン。
6月にはイソツツジの白い花が満開に

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遠くに斜里岳が夕日に照らされている


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硫黄山の火山活動がつくる不思議な世界


最終日3日目は、午後からの天候悪化の予報をにらみ、摩周湖から出発して、川湯温泉に降りていく逆向きコースに急遽変更。「出る川も入る川もない」という不思議な湖、摩周湖から、川湯温泉に向かって降りていく。
弟子屈在住の萩原さんから、猟師とともに歩いたときに教えてもらったというエゾシカやエゾユキウサギの習性を聞いて、ハーレムオス鹿の厳しい人生に想いを巡らせる。ザ・北海道らしい広がりある牧場、畑。秋まき小麦の若芽が青々と茂り、夏の爽やかな高原を想像してみる。開拓民が植えたカラマツ林は黄金色に色づいており、シマエナガやゴジュウカラの姿がチラリと見え、私たちはついつい立ち止まって、その小さな姿を追う。

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霧でない摩周湖!


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摩周湖の辺りは「北根室ランチウェイ」トレイルと共通の道


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カラマツ林も北海道らしい風景


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硫黄山をバックに。ゴールまであと1キロ、達成感あふれるメンバー!

北海道の地図を広げれば、3日間で44キロなんて、本当にどこにも移動していない、点でしかない。車に乗って時速60キロで移動する旅とは大違いだ。
でも、歩くスピードだからこそ見えてくる、出会える素敵な光景がたくさんあって、時速2、3キロで旅した時間を愛おしく思う。これを書いている今、牧場のシャネルno5と言われるあの芳しい匂いを思
い出しながら、広い広い大自然広がる道東への再訪を夢見てしまう。


<文章・写真>
添乗員/青崎涼子
通訳案内士(英語)、JMGA認定登山ガイド。
ここ10年は、海外のトレイルを日本の方と、日本のトレイルを海外の方と歩いてきましたが、現在は海外旅行が止まってしまったため、日本の良さを再発見してきた2021年。
次はどこへ行こうか、旅から戻ると地図を広げて夢想が始まる落ち着かない秋の毎日。