<パンフレットにある謎の京都旅>
秋の京都と聞いたら、何が頭に浮かびますか?
カラフルな色で彩られたスターの清水寺や東福寺。紅葉の時期という視点では、永観堂や瑠璃光院の紅葉?
ところが、今回の旅は、そんな京都中心部に背を向け、京都中心部から南に30キロ、滋賀、三重、奈良、大阪の県境に位置する宇治田原町を2日間歩く旅です。

そうなのです。国内の山旅のパンフレットを眺める度に不思議に思っていたのが、秋山康二さんが企画~ガイドまでを行う「京都、奈良スペシャルウォーク」の特集ページ。
他の登山ツアーとは一味違う、文化と歴史の色が強いウォーキングの旅がずらりと並んでいます。
チラリと耳に入る噂では、大人気ツアーで、もう16年も続いているとのこと。
この11月末、「とっておき京都 秋のスペシャルウォーク、家康伊賀越えの道 1泊2日」に添乗員として同行する機会がありましたので、今日はその旅レポートをお送りします。
朝の東京駅に集合したのは、このシリーズのファンばかり11名、皆様が何度も参加されているリピーターとのこと。
期待と共に新幹線に乗り込みます。
写真1:今回の舞台は、茶畑続く、宇治田原町
今回の舞台は、茶畑続く、宇治田原町

<今回の旅の舞台は、宇治田原町>
京都駅からは、お迎えのバスに乗りこみ、さらに揺られること1時間。
第二京阪、そして名神高速の4キロもある長いトンネルを抜けると、それまでの平地から山間の風景へと変わります。
さらにクネクネと山道を進むこと20分。
突然開けた茶畑広がる長閑な景色に、参加者のお一人が「京都のチベットみたい、、、なんだか隠れ家っぽい、素敵な場所ね」と呟く、その言葉に大きく頷く私です。

図:宇治田原町 地図
宇治田原町 地図(出典:宇治田原町hp)

移動日でもある初日は、スタート地点となる町内を軽く散策。
百人一首を歌った猿丸大夫を祀る神社や、旧国宝でもあったという、平安時代の十一面観音立像がある古刹があったりと、京都の長い歴史の凄みを実感します。
さらに11月のこの時期は、赤く熟れた小さな古老(ころ)柿が、柿屋と呼ばれる仮設の棚に、一面に干されている風景にも出会えます。

写真2:猿丸神社入り口。
猿丸神社入り口。そういえば小学生の時、百人一首は全首暗記していたなあ。

写真3:柿屋はこの時期の名物風景。
柿屋はこの時期の名物風景。2週間干し続けるのだとか。吊るさない方式は初めて見ました。

<地産地消の食事>
そうそう、ここでいただいた昼食にも触れておきましょう。
旅の醍醐味の一つはその土地のものを味わう、味覚でも旅を楽しみたい私ですが、この古都歩きシリーズでは、秋山さんは、いつも食事場所もかなり厳選して選ばれているとのこと。
初日のお昼は、町の老舗、魚定さんの「ふるさと御膳」。
お重の隣に添えられていたA4用紙1枚にも及ぶメニュー表には、「西川さんが作る牛蒡」「中辻さんの原木椎茸」など、細かく生産者情報が記載されていました。
派手ではないですが、しみじみと美味しい、すべて生産者の顔が見えるお料理。
地元ガイドの茨木さんは「あったりまえだよ」とおっしゃっていましたが、この土地の豊かさを感じた食事でした。

写真4:「ふるさと御膳」

写真5:「ふるさと御膳」メニュー
「ふるさと御膳」とそのメニュー

<そして、伊賀越えの道>
さて、翌日は、旅のメインである古道、「家康、伊賀越えの道」歩き。
16世紀にタイムスリップ、本能寺の変を聞き、こりゃまずいと、明智光秀から逃げる家康の気持ちを想像しながら、近江国の手前、松峠を目指して10キロを歩きます。
もりもりと丸い列で並ぶ茶畑、民家の庭先にたわわになる柿の木、道端に生えている、ピカピカ真っ赤に熟した野生イチゴを摘んで口にしてみたり。
晩秋の、からっと晴れ上がった暖かな気持ちの良い小春日和で、気持ちの良いウォーキングが続きます。

写真6なだらかに登っていく道。
なだらかに登っていく道。色づいた木々から柔らかい晩秋の太陽が。

そうそう、忘れてはいけない。
今回の旅には、現地在住の強力な助っ人、「宇治田原の歴史を語る会」代表の茨木さん。
彼が地元ガイドとして、一緒に歩いてくださいました。
ここで生まれ育った方なので、顔の広いこと広いこと。
通りがかりに出会う近所の方々も、茨木さんの顔をみると気軽に声をかけてくれ、ちょっとした交流が生まれるのが楽しいのです。
「おーい、久五郎さんよ、この方達に、柿剥く作業を見せてやってよ」
その声を受け、柿屋で、干し柿造りをしていた男性が、作業の手を止めて、わざわざ裏の作業場を案内してくれました。
実は、この方、日本茶界では有名な下岡久五郎さん。
彼が生み出す玉露は、天皇杯、農林水産大臣賞と、大きな賞を何度も受賞しているという日本茶界のレジェンドだそうです。
「せっかくなので僕のお茶も味わっていってください」と、スペシャルなお誘いをいただきます。
断る理由はありません。
玄関にリュックを置いて、そそくさと彼のオフィスにお邪魔します。
「玉露は40度のお湯で1分半蒸らします」
「玉露用の急須は取手がないんですよ。熱くないから手のひらで持てるんです」
淡々と説明しながら、お猪口ほどの湯呑みに、淡く黄色い液体をゆっくりと注いでいきます。
舌先でゆっくりと転がしたそのお茶は、濃い出汁のような、甘味よりも旨味を感じる味でした。
予定にはない、偶然を楽しむ旅の面白さを感じました。

写真8玉露の茶葉の美しさにも驚きでした!
玉露の茶葉の美しさにも驚きでした!

楽しいひとときを過ごしたあと、名残惜しいながらも、久五郎茶園を後にし、伊賀越えの道を再び歩き始めます。
町を抜けるといつの間にか舗装道は林道へ。
徐々に高度を上げながら、昔の旅籠跡、谷間に続く、黒い瓦屋根美しい立派な家々の集落を縫いながら、最後は、馬に乗ったお侍さんが出てきそうな、雰囲気満点の松峠を越えます。

写真9茶畑が続きます
茶畑が続きます

写真10茶畑の中には、たわわに実る柿の木もたくさん
茶畑の中には、たわわに実る柿の木もたくさん

写真11 昔の街道跡を感じさせるエリア
昔の街道跡を感じさせるエリア

写真12 古道の看板はほとんど出ていない
古道の看板はほとんど出ていないので、地図読みしないと難しいルートではあります

これで終わりではありません。
この日のゴール手前では、ハート型に見える「猪目窓」が有名なお寺があります。
秋色に彩られた美しい寺を見学し、無事に10キロの旅程を歩き終えました。

写真13 正寿院の猪目窓
正寿院の猪目窓は、インスタ映えするからか、若い訪問客で賑わっていました

写真14 紅葉は最盛期。

写真15 紅葉は最盛期。
紅葉は最盛期。京都といろは紅葉は似合うなあ

写真16 手水鉢も美しく
手水鉢も美しく

2日間を通して、「京都奈良スペシャルウォーク」シリーズの魅力を満喫してしまった私。
ファンが多いのにも納得しました。
どこを見学観光するかではなく、どう旅をするのか。
歩くスピードだから出会える景色を楽しむ旅です。
このシリーズは来年17年目を向かえる長寿企画。
2022年も6月までの出発日が出揃っています。
ぜひ皆様のご参加をお待ちしております!
<文章・写真>
添乗員/青崎涼子
通訳案内士(英語)、JMGA認定登山ガイド。
ここ10年は、海外のトレイルを日本の方と、日本のトレイルを海外の方と歩いてきましたが、海外旅行が止まっている今年は、国内をうろうろ。
旅行をプロデュースするプロとして、企画をきっちりと作り込むことは必要なのですが、そこに余白を残しておき、偶然の予期せぬ出会いや時間は、旅の醍醐味。
訪問箇所よりも大切なものがあると再認識できた旅でした。