登山コラム《山記者小野博宣の目》
藤原岳(1144m)-大阪・毎日登山塾2022-ステップ3


「地元の人に愛されている」。そう思える山は各地にある。
関西の名峰・藤原岳(1144m)に登り、そんな山のひとつと感じた。

2022年5月21日、三重県いなべ市藤原町の大貝戸休憩所に、12人の男女が集まった。
毎日新聞旅行の登山ツアー「富士登山塾ステップ3」の参加者たちだ。
今年3月からスタートし、低山から徐々に標高を上げて、夏には富士山に挑戦する。
3月に奈良の二上山(517m)に登頂した時は、真新しかった登山靴も汚れが少し目立つようになった。

01_藤原岳山麓の大貝戸休憩所。
藤原岳山麓の大貝戸休憩所。きれいなトイレもある。


「準備はいいですか」。リーダーの長尾明美ガイドが皆に声をかけた。
参加者がうなずいたのを見て、先頭を歩くガイドが神社の鳥居をくぐった。
さらに「登山道に入るので、一列になってください」と伝えた。
それぞれのザックを見ると、登山用の本格的なものもあれば、街歩き用の小さなものもあった。
雨の侵入を防ぐザックカバーを装着している人もいれば、ビニール袋で小型のリュックを覆っている参加者もいた。
登山靴もあれば、運動靴もあった。
小さなリュックやビニール袋、運動靴は登山には向かない。ましてや富士山にはまったく通用しない。例年ステップ3までによく見られる光景だ。
「人の振り見て我が振り直せ」と言われる。
その通りで、他の人の装備を見て自分のそれを省みることは大切なことだ。富士登山への準備も登山道具をそろえる段階に入ったといえるだろう。

02_長尾ガイドを先頭に新緑の道を歩く。
長尾ガイドを先頭に新緑の道を歩く


新緑の道を歩き、徐々に高度を上げる。
急な登りもあるが、登山道はずい所でつづら折りになっており、登りやすい。
数十分ごとに「藤原岳 表登山道 ●合目」と記された標識が出てきた。この合目表示板が登山者に歩くリズムをもたらしてくれる。
こうした標識や整備された登山道を歩いていると、地元の方々の山への思い入れを強く感じる。
「藤原岳に楽しく、安全に登って、無事に帰宅してほしい」。
整備に携わる方々の、そんな声が聞こえるようだ。
そうした願いに守られたのか、汗は出るものの、気分はすがすがしい登りとなった。

小雨は降ったり止んだりだった。しかし、樹林帯の中ではずぶぬれになることはなかった。
「木のおかげで雨(の水滴)がかからないですね」と長尾ガイドが笑った。
山中に咲くフタリシズカの花穂が登山道の隅でひっそりと揺れていた。
4合目で昼食休憩となった。

03_五合目にさしかかった。
五合目にさしかかった。登山道は整備され、歩きやすい。


村野匡佑ガイドが「休憩中、冷えるので一枚はおってください」と声がけした。
正午前に出立した一行は、午後2時10分過ぎに藤原岳山頂に到達した。

04_藤原岳山頂。
藤原岳山頂。あいにくの曇天で展望はなかった。


残念ながら山頂の周囲は雲に覆われ、展望はままならなかった。晴れていれば、鈴鹿山脈南部の山々が見渡せたはずだ。
参加者は山頂で記念撮影をして、早々に引き上げた。

05_山頂で記念撮影をする参加者の皆さん
山頂で記念撮影をする参加者の皆さん


登ってきた登山道をたどり、午後5時過ぎに休憩所に戻った。
歩いた距離は10km余り、6時間半ほどの行程だった。
参加した男性は「登山の道具をそろえ、富士山にはぜひ登りたい」と意欲を見せた。
【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡ・小野博宣】



06_熊への注意喚起の看板があった。
熊への注意喚起の看板があった。こんなにかわいい熊なら出会ってみたい?



●筆者プロフィール●
1985年毎日新聞社入社、東京社会部、宇都宮支局長、生活報道部長、東京本社編集委員、東京本社広告局長、大阪本社営業本部長などを歴任。2014年に公益社団法人日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡの資格を取得。毎日新聞社の山岳部「毎日新聞山の会」会長