登山コラム《山記者小野博宣の目》
日帰りツアー「毎月高尾山」レポート(2022年5月)


ひとつの山域を、季節や月を替えてじっくりと歩くことは魅力的なことだ。同じ地域の山々でも咲いている花や木々、緑の深さが違う。新緑の瑞々しい青葉と、緑が濃くなった盛夏とでは山の雰囲気は異なる。
「まいたび(毎日新聞旅行)」のツアー「毎月高尾山」は、ミシュランガイドで三ツ星を獲得した高尾山(599m)を中心にした山域を、9月まで毎月1回のペースで歩く。
移ろいゆく季節を体感するのにはもってこいの企画だ。
※第1回(4月)開催のレポートはこちら

2022年5月26日に開かれた第2回は「貴重な日本自生のラン・セッコクを眺めて歩き、呼吸法と足の運び方を学ぶ」がテーマだ。
一行16人は午前10時前に京王線高尾山口駅前に集合した。
ベテラン山岳ガイド、太田昭彦さんが「さぁ、出かけましょう」と歩き始めた。
ケーブル清滝駅の裏手には、セッコクの花が咲いていた。
「セッコクが咲いていますね。ラン科の植物です。(根付いた樹木や岩から水分を取るのではなく)空気から取ります」と解説してくれた。

01_高尾山に咲くセッコクの花
高尾山に咲くセッコクの花


この後、6号路の登山口へ。
この登山道は山頂近くまでせせらぎの脇を歩く。そのため、暑い季節には涼しく、お勧めの道だ。
一列となった参加者はゆっくりと進んだ。杉の巨木を見上げると、セッコクの花が揺れていた。
「セッコクの花が見られます」と声をかけてくれた。

02_武将が使う采配に似ているサイハイランも咲いていた
武将が使う采配に似ているサイハイランも咲いていた


太田ガイドの直後、つまり参加者の先頭を歩く人は10分ごとに最後尾と入れ替わった。参加者全員が太田ガイドと直接会話ができる工夫だ。
参加者は「山歩きの練習方法は?」などと質問をしていた。

「コロナで久々にツアー登山に参加という方が多いと思う。山に登る体力を維持するために、月に2回は山に来てほしいですね」
「週に1~2回のウォーキングをしていただくと山でスムーズに歩けるかな。山でのケガ、転倒が少なくなると思う」。
太田ガイドは丁寧に答え続けた。

03_山の歩き方を伝える太田ガイド
山の歩き方を伝える太田ガイド


午前10時40分過ぎ、最初の小休止となった。
「水分補給をお願いします。靴ひもも締め直してください」と語りかけた。

再び歩き始めると、登山道の脇に可憐なフタリシズカの花穂が揺れているのに気付いた。
「(花穂は)1人(本)だけど(名前は)2人です。大河ドラマの静御前に見立てています」と話した。
ホオバの木を見つけると、「大きいホオバがあります」「ほう」と冗談を言い、疲れ始めた一行を笑わせた。
「石がゴロゴロしているところは、できるだけ足場のよい所を選んでください」と注意喚起も怠らない。

04_フタリシズカ
フタリシズカ


午後0時半ごろ、高尾山頂に到着した。平日にもかかわらず、大勢の登山者、観光客がいた。

05_高尾山頂から丹沢方面を見る。雲が多く、富士山は見られなかった
高尾山頂から丹沢方面を見る。雲が多く、富士山は見られなかった。


ここで昼食休憩の後、一行は下山にかかった。
「いろはの森」と呼ばれる樹林帯を下り、高尾駅行きのバス停を目指す。

06_いろはの森を下山する一行
いろはの森を下山する一行


「脚力がないときれいに降りられない。どんなスポーツも筋トレします。山こそ筋力です」
「脚力を鍛えてもらうには、山を歩いてもらうことです。山に行けなければ坂道を歩いてください」と太田ガイドはアドバイスを送った。
さらに、参加者から「ストックは使った方がいいですか」との質問があった。
「ストックはバランスの補助と考えてください。ダブルストックにすると、脚力の負担は軽くなります」と語った。
午後3時過ぎに一行はバス停に到着。路線バスで高尾駅に向かった。

参加者からは「山のツアーは数年ぶりで不安だったが、歩けました」と安堵の声が聞かれた。
太田ガイドは「この夏に向けて良いトレーニングになったと思います。山でお待ちしています」と笑顔で締めくくった。
【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡ・小野博宣】



高尾山の登山道


高尾山にはいくつもの登山道がある。代表的なコースを紹介するとともに、筆者の楽しみ方をお伝えしたい。

★1号路
高尾山を代表するコースで、ケーブル清滝駅前から山頂をつないでいる。
表参道となり、たくさんの茶店が軒を連ねている。たこ杉、浄心門、さる園など見どころも多い。
筆者はこのコースは下りで使っている。登りで使うのは止めた方がいい。なぜならこう配がかり急だから。
下調べをしなかったのか、登っている人も大勢おられるが、とても辛そうだ。

★6号路
こちらは清滝駅奥の登山口から山頂を結ぶ。
登山口からは小川のわきを歩くため、夏でも涼しい。琵琶滝といった見どころもある。
ただし、岩や石が路面に露出し、小川の中を歩く場所もある。ハイヒールやサンダルでは歩けない。登山靴が望ましい。
筆者が最も好きなのはこの登山道だ。
涼しいこともあるが、春から夏にかけての花々が素晴らしい。シャガやフタリシズカ、そして樹上にはラン科のセッコクも咲く。花の探訪にぜひ訪れてほしい。
なお、筆者は涼しいこともあり、登りのみに使っている。
ゴールデンウィークなどハイシーズンには登りの一方通行となる。

★4号路
山頂トイレから浄心門を結ぶ。
こちらも筆者の好きな道で、特に理由はないが下山時にのみ使っている。
ハイライトは高尾山で唯一のつり橋だ。そんなに長いつり橋ではないが、高度感は結構ある。それに揺れる。高所恐怖症の人は4号路は使わない方がいい。
こちらも山道なので登山靴がお勧めだ。

★3号路
山頂付近から浄心門を結ぶ。
この道は穴場だろう。歩いている人がほとんどおらず、静かな山歩きに向いている。筆者も心静かに歩きたいときはこちらに進む。
難点は樹林帯を通過するので、展望がまったくないことだ。

★稲荷山コース
清滝駅裏から山頂まで続く。高尾山の山道の中では、最も本格的な登山コースとなる。
高尾山南側の尾根道を歩き、2時間ほど登り続けることになる。稲荷山までは急こう配が続くが、そこから先はなだらかになる。道幅も広く、植林されたスギ、ヒノキの中、気持ちよく歩ける。
筆者は、夏山に向けた訓練登山などで利用することが多い。

★お勧めグルメ
夏場には「高尾山ビアマウント」にぜひ立ち寄ってほしい。
標高500mの夜景を見ながら、生ビールを飲むのは至福の瞬間だ。食べ放題の食事もおいしい。
外せないのは、ケーブル高尾山駅前の売店「高尾山スミカ」の天狗焼だ。高尾山を代表する名物と言っていい。
北海道産の粒の大きな黒豆あんこは甘さ控えめ。甘いものが苦手な筆者でも美味しいと思うし、ウイスキーのロックと合うから不思議だ。
できれば焼きたてを食べたいところだが、長蛇の行列は必至だ。
また、「ごまどころ権現茶屋」の八王子ラーメンはぜひお勧めしたい。
飲食店が経営しているお店だけにどの料理もおいしいのだが、八王子ラーメンは絶品だ。
濃い目の醤油スープと刻みタマネギの相性は抜群。ぜひ試してほしい。
筆者はこのラーメンを食べるだけに高尾山に出かけたこともある(その時は山頂には行かなかった)。


●筆者プロフィール●
1985年毎日新聞社入社、東京社会部、宇都宮支局長、生活報道部長、東京本社編集委員、東京本社広告局長、大阪本社営業本部長などを歴任。2014年に公益社団法人日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡの資格を取得。毎日新聞社の山岳部「毎日新聞山の会」会長


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