登山コラム《山記者小野博宣の目》
2泊3日「猪熊氏と学ぶ 雲見トレッキング~磐梯山と西吾妻 雄国沼湿原」レポート(2022年7月)

 日本で唯一の山岳専門の気象予報会社「ヤマテン」代表の猪熊隆之さんは気象遭難の恐ろしさやその予防方法について、著作やインタビュー、講演会などで繰り返し訴えている。時には野山を歩き、さまざまな雲を見ながら天候の変化について実践的な解説をしてくれる。その猪熊さんが講師を務める「山岳気象予報士 猪熊隆之氏と学ぶ 雲見トレッキング」が2022年7月1日、福島県の裏磐梯地方を舞台に、3日間の日程で開かれた。
猪熊さんと参加者9人は、午前中にJR郡山駅に集合し、バスに乗り込んだ。猪熊さんは車窓に浮かぶ雲を眺めつつ、「今日は太平洋高気圧に覆われて良い天気です」「北側の方が、雲が多い。これは東北北部に梅雨前線の名残があるからです」と解説を始めた。湿った空気が上昇することで雲ができることなどを説明し、「山の場合は、風が山にぶつかり、斜面を登って上昇気流になります」などと山の地形が雲をつくることを分かりやすく伝えてくれた。
 一行は、ニッコウキスゲが咲き乱れる景勝地・雄国沼に到着した。大の花好きの猪熊さんはニッコウキスゲを撮影しながらも、湖沼にかけられた木道のあちこちで立ち止まっては天気の知識を披歴した。「雲の流れが上空の風を表しています。ここは西風ですね」「日本海側の山は、日本海から急変します。(ここでは)日本海側を見ることが大切です」と丁寧な解説が続いた。

雄国沼のニッコウキズゲ
雄国沼のニッコウキズゲ

ミヤマオダマキ
ミヤマオダマキ

この後ホテルに移動し、スライドを使っての座学となった。猪熊さんは気象遭難のひとつである「低体温症」について語った。「怖いのは初期症状を意識しにくいことです。(登山中に)フラフラになって本人もガイドも気が付きます」と恐ろしさを語った。原因について「長時間、雨に打たれ続けると発症します」とした。予防方法は「雨の中を長い時間歩かないことです。(長時間歩行が)予想される時はルートの変更か、中止が必要です」と具体的な対策に触れた。

翌7月2日は、日本百名山の会津磐梯山(1816.2m)に向かった。午前8時半、磐梯山北西部の八方台登山口をスタートし、ブナ林の道をゆっくり歩いた。「ブナが美しい」と猪熊さん。さらに「吾妻連峰の方に積雲がわいてきましたね」「平べったいのっぺりした雲は名前に層の字が付きます。巻層雲です」などと話した。急斜面の登山道を耐えて登り、同10時46分、弘法清水小屋前に着いた。ここで大休止となった。

会津磐梯山に咲くサラサドウダン
サラサドウダン

マイズルソウ
マイヅルソウ

午前11時40分過ぎ、会津磐梯山山頂に立った。山頂からは猪苗代湖が見通せた。日差しが強いが、風がさわやかだ。猪熊さんは成長した積雲を指さし、「上空が乾いているので、(雲が雨を降らせる)やる気を出してもあれくらい(の成長)です」と述べた。「南の方に薄雲、巻層雲が広がっていますね。西に(雲が)できるとちょっと天気は危ない」と語りかけた。

会津磐梯山山頂で雲の解説をする猪熊さん
会津磐梯山山頂で雲の解説をする猪熊さん

3日目の7月3日は、こちらも日本百名山の西吾妻山(2035m)を目指した。移動のバスの中では「全天を薄雲が覆っています。天気が下り坂になるサインです」と伝えた。眺めの良い展望台では、「太平洋から湿った空気が入ってきています。太平洋の方が、雲が多くなっています」と解説した。「今日は東風です。太平洋側から湿った空気が入りやすくなっています」とも付け加えた。午後12時43分、山頂に到達した。しかし、樹林に囲まれ展望はない。参加者は山頂標識前で記念撮影し、下山の途についた。
西吾妻山へ向かい、雪渓の上を歩く
西吾妻山へ向かい、雪渓の上を歩く

西吾妻山頂。展望はない
西吾妻山山頂。展望はない

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かもしか展望台にて、雲を見る一行

猪熊さんは、登山前に「天気図を見て、出かけよう」と勧めている。「天気図で風の強さ、風の吹く方向を確かめて」とも。登る山の気象状況を事前に把握しておくことは安全登山には必須だろう。私たち登山者も気象遭難は防ぐことができる遭難と肝に銘じ、山と風、そして雲について学び続けたい。

●筆者プロフィール●
1985年毎日新聞社入社、東京社会部、宇都宮支局長、生活報道部長、東京本社編集委員、東京本社広告局長、大阪本社営業本部長などを歴任。
2014年に公益社団法人日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡの資格を取得。
毎日新聞社の山岳部「毎日新聞山の会」会長