登山コラム《山記者小野博宣の目》
富士山-大阪・毎日登山塾2022-ステップ6

DSC_0046フジアザミ
フジアザミ
山々の影が湖水や地上、雲海に映る姿を高山で時折目にする。この自然現象は富士山では「影富士」と呼ばれる。

2022年8月22日午後4時過ぎ、御殿場ルートの標高3300m付近に建つ山小屋「赤岩八合館」。
その前で大勢の登山客が歓声を上げた。
「すごい迫力」、「見て、大きな影!」、
そう口にしながら盛んにスマートフォンやカメラの撮影ボタンを押した。
彼らの眼前には、白い雲海の上に薄墨を流したような影富士の姿があった。

DSC_0286影富士 雲海の上に姿を見せた巨大な影富士
雲海の上に姿を見せた巨大な影富士

時間を追うごとに影はみるみる成長してゆく。その巨大な三角形は、実際の富士山よりはるかに大きくなっているだろう。大自然の織り成す圧巻の影絵に眼も心も奪われた。影富士を目撃した登山者の中に、毎日新聞旅行の「富士登山塾」の参加者18人がいた。塾では登山初心者が富士山登頂を目指して3月からトレーニング登山を重ね、8月にあこがれの頂への登頂を目指す。

8月21日午前7時に大阪・梅田をバスで出発し、六合目の山小屋「雲海荘」で一夜の宿をとった。

8月22日午前4時半過ぎ、小屋の前に集まった参加者に、高山宗則ガイドは「山頂とここ(六合目)では温度差があります。フリースなどの防寒着を用意してください。レインウェアも風を防ぎます。ザックからすぐ出せるようにしてください。」とアドバイスした。同55分に小屋を出発した。

DSC_0050 宝永第一火口底 荒涼とした宝永第一火口底
荒涼とした宝永第一火口底

20分も歩くと大きなすり鉢状の大地に降り立った。宝永第一火口底という。1707(宝永4)年に大噴火した時の火口跡だ。麓(ふもと)の村々を火山灰で埋め尽くし、降灰は江戸まで届いたと記録にある。未曽有の災害に江戸時代の社会と経済は大きく混乱した。
荒涼とした火口底に身を置くと、「もし今同規模の噴火が起きたら、江戸時代のように私たちの生活は大打撃を受けるだろうな」と実感せざるをえない。
ここに来るたびに、登山の喜びよりも大自然への畏怖を覚えてしまう。富士山は現在も活動を続けていることを忘れてはならない。火口底での休憩の後、砂ザレの斜面を登り詰めた。
一歩歩くたびに登山靴は砂に埋まり、靴ごと後に運ばれてしまう。

DSC_0153雲の中を登る 夏の雲がわく中を、山頂に向かう
夏の雲がわく中を山頂に向かう

DSC_0209山頂直下 落石が転がる山頂直下を歩く
落石が転がる山頂直下を歩く

悪戦苦闘の後、午前10時前に山頂間近で休憩を取った。
高山ガイドは「いよいよ頂上にアタックします。体力だけでなく(登るという)気持ちが大切です」と励ました。
荒涼とした岩場を歩き、午前11時40分、山頂に到達した。「やった」と笑顔の壮年がいれば、涙を流す女性もいた。日本最高地点の剣ケ峰ではそれぞれが記念撮影をし、「やりましたね」、「頑張りましたね」と互いをたたえ合った。富士山頂での交歓は登山塾ならではの光景だろう。

DSC_0265剣が峰 最高地点の剣ケ峰
最高地点の剣ケ峰

【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡ・小野博宣】
●筆者プロフィール●
1985年毎日新聞社入社、東京社会部、宇都宮支局長、生活報道部長、東京本社編集委員、東京本社広告局長、大阪本社営業本部長などを歴任。
2014年に公益社団法人日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡの資格を取得。
毎日新聞社の山岳部「毎日新聞山の会」会長