登山コラム《山記者小野博宣の目》
富士山2泊3日
-東京・安心安全富士登山2022-ステップ7

DSC_0912日の出館踊り改 山小屋「日の出館」従業員総出の歓迎の踊り
           山小屋「日の出館」 従業員総出の歓迎の踊り
2 日の出館ハンバーグ定食 山小屋に連泊予定の人には提供してくれる
日の出館のハンバーグ定食 山小屋に連泊予定の人には提供してくれる

2022年8月19日午前4時半、富士山七合目の山小屋「日の出館」は夜明け前の薄明りに包まれていた。
気温は15度ほど。肌寒い。登山用ヘルメットに付けたヘッドランプの灯りが光る。
まいたび(毎日新聞旅行)が主催する「安心安全富士登山教室」の参加者11人が待機していた。
3 吉田ルート七合目からの夜景 東京横浜方面は不夜城のよう
吉田ルート七合目からの夜景 東京・横浜方面は不夜城のよう

教室は登山初心者が3月の高尾山から月ごとに標高の高い山に登り、最終的に富士山に登ることを目的としている。
リーダーの豊岡由美子ガイドが出発の声をかけた。「さぁ、行きましょう」、「暗いから足元を注意して」、鮮烈な空気の中、一行は岩石の登山道に足を踏み入れた。

吉田ルートの七合目から頂上までは、いくつかの岩場を踏み歩かねばならない。
「気を付けて」、「ゆっくり」とガイドが何度も声をかけた。

午前5時過ぎ、標高2800m辺りに差しかかった時太陽の曙光がきらめいた。足を止めた参加者からは「すごい」、「きれい」との言葉が漏れた。山肌の外気は相変わらず肌を刺すが、まばゆいばかりの旭日に心は踊り寒気を吹き飛ばしてくれる。

DSC_0991日の出と斜面改 2800㍍付近の夜明け
日の出との富士の斜面 2800m付近の夜明け

吉田ルートは、「山小屋銀座」と言いたくなるほどたくさんの山小屋が連なっている。つづら折りの岩場にへばりついているようにも見える。各小屋の従業員たちは、客が出立した後の清掃などに追われていた。
その喧騒の脇を、額に汗を浮かばせた男女が静かに通り過ぎていく。岩場に差し掛かると豊岡ガイドが「歩幅を小さく」、「足を安定したところに置いて」と注意喚起した。

午前7時5分、八合目の山小屋「白雲荘」に到着した。ここは今宵の宿となる。山頂アタックに不要な荷物を置き、同37分に再び歩き始めた。
豊岡ガイドは「ここからが本番です」、「顔を上げて、深呼吸を忘れずに」といく度も声をかけた。30分後に立ち休み(立ったままの小休止)をとった。
ガイドは「みんな呼吸が浅くなっています」、「足取りも重くなっています」、「一段一段、呼吸を整えながら、ゆっくり登りましょう」と励ました。

標高は3200mを超え、酸素も地上より薄くなっている。正念場だ。九合目を過ぎ参加者の息がいよいよ荒くなってきた。急こう配の岩石地帯が続く。「姿勢を調え、呼吸をしっかりと」と豊岡ガイドが叱咤した。

DSC_1181山頂直下の岩場
山頂直下の岩場

午前10時5分、最初の女性が山頂を踏み、豊岡ガイドとハイタッチをした。
「やったー」、「これで年を越せる」と感激の声が相次いだ。
ある参加者は「友達から『富士山は見る山』と言われていた。それでも何とか60代のうちに登りたくて挑戦した。登れてよかった」と語ってくれた。箱庭のような山中湖や八ガ岳連峰が見下ろせた。富士山に登った者だけが見ることを許される絶景といえるだろう。

DSC_1223富士山山頂 にぎわう吉田ルートの山頂 
にぎわう吉田ルートの富士山山頂

DSC_1353日の出と山中湖 下山時、朝もやの山中湖を望む
下山時、朝もやの山中湖を望む

【毎日新聞元編集委員、日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡ・小野博宣】
●筆者プロフィール●
1985年毎日新聞社入社、東京社会部、宇都宮支局長、生活報道部長、東京本社編集委員、東京本社広告局長、大阪本社営業本部長などを歴任。
2014年に公益社団法人日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡの資格を取得。
毎日新聞社の山岳部「毎日新聞山の会」会長