鳳来寺山と乳岩峡
紅葉の奥三河へ

愛知県北東の山間部を指す奥三河。一聴すると地味な山域かもしれませんが、ここには幾重にも歴史を紡いできた山、そして驚きと感動を与えてくれる自然があります。
秋晴れの続いた11月中旬、紅葉の奥三河をご案内した忘年山行のレポートをお届けします。

2022年11月15日 1日目
出発地の東京駅はあいにくの小雨。足元の悪いなか、18名のお客様にご参加いただきました。ありがたいことです。道中、好転していく空模様と、魅力ある目的地へ案内できる喜びで胸が高鳴りました。

初日に目指したのは乳岩峡(ちいわきょう)。
はじめは林道歩きですが、並行して流れる乳岩川は沢登りで言うところの「ナメ沢」続き。水も綺麗でとても癒されます。トイレの設置された登山口を過ぎれば桟敷岩。特徴的な地形と清流に心が動かされます。昔の川底が隆起と浸食によって川底が低くなった結果、元の川底が桟敷のように残っています。

1.乳岩峡の清流
乳岩峡の清流

通天洞はよくぞここに登山道を拓いた! という鉄のハシゴ・階段の連続。四方を囲む大岩壁と、岩間に挟まれたチョックストーン(溝に挟まった岩石)に圧倒されます。ハシゴ通過は一人ずつが基本。前の方は通り終えたら後ろの方に声をかけてと説明したものの、皆さん興奮気味で伝達できていたでしょうか…

2.通天洞入口、正面の階段・ハシゴを進む
通天洞入口 正面の階段・ハシゴを進みます

3.通天洞内部のチョっクストーン
通天洞内部のチョックストーン

通天門は天然の石門。妙義の石門に負けずとも劣らないスケールで、空にアーチを架けています。通天門の向こうは澄んだ青空だったためか、「なんであんな所にブルーシートが掛かっているの?」との声が上がりました。そう見えてしまうほどの偉容なのです。

4.通天門と三ツ瀬明神山
通天門と三ツ瀬明神山

鍾乳洞は乳岩峡のシンボル。幅・高さ十数メートルの半円状の洞穴です。乳岩峡の由来は鍾乳洞の天井にある鍾乳石が乳房に見えたことから。皆さんで内部から鍾乳石と紅葉の山々を楽しみました。
短時間で次々と現れる自然の造形を堪能して宿泊先へ。

5.鍾乳洞内部から
鍾乳洞内部から

この日のお宿は、歴史ある奥三河の名湯・湯谷温泉の湯の風HAZU。部屋の窓から鳳来峡を眺めることができるロケーションが素晴らしいです。乳岩峡の桟敷岩に似た、隆起と浸食によってできた段丘を見ることができます。夕食は品数豊富で子持ち鮎が特に美味でした。

6.鳳来峡
鳳来峡

7.湯の風HAZU・夕食風景
湯の風HAZU 夕食風景

2022年11月16日 2日目
2日目はお宿で朝食をいただき、鳳来寺山表参道からスタート。
もみじの色づきもまずまずでしたが、この日は銀杏の黄葉が素晴らしいタイミングでした。

8.門谷地区のいちょう
門谷地区のいちょう

門前町の風情を残した門谷地区を歩き始めると、鳳来寺特有の商店として硯屋が2軒現存しています。硯に適した石が産出したことから、開山当時からこの地で作られていたそうで、既製品とは異なり手彫り一つ一つ形が違います。
江戸時代は人気を呼んで、遠方から買い求めに来た客のために徹夜で作って納めたなんてエピソードも。

9.門谷地区を進む
門谷地区を進む

鳳来寺山の開山は703年、修験者の利修と言われています。利修は「役小角と兄弟だった」、「300歳生きた」、「三匹の鬼が子分だった」など数々の伝説が残されています。
真実は定かでないですが、山名の由来は当時文武天皇の病気の治療を依頼され、利修仙人が鳳凰にのりやってきたという伝説に由来しています。

10.利修仙人像
利修仙人像

次に現れる仁王門は国指定重要文化財。仁王門といえば東大寺が有名ですが、鳳来寺も秀逸です。
1651年に建てられた原型を留める阿形・吽形は迫力が感じられました。

11.仁王門
仁王門

全体が国指定天然記念物となっているこの山は、杉の巨木が多いのも特徴。その中でも傘杉は樹齢800年・樹高60mを誇り長年日本一の高さとされていましたが、2017年に京都の花脊(はなせ)杉に抜かれてしまったそう。それでも堂々たる目通りの幹の太さに、皆さん感嘆のため息が漏れます。

12.写真に収まらない傘杉
写真に収まらない傘杉

開山以降東三河の名刹として知られたものの、衰退していた鳳来寺山。再び脚光をあびるのは鎌倉時代。平安末期平治の乱で落ち延びた源頼朝が、殺生禁断の地・僧坊の医王院に匿われました。その恩から石段を作ったと言い伝えられています。
そして、時は流れ江戸時代。徳川家のルーツ・松平氏の発祥の地も東三河であることから、家康の時代に東海道を行き来する際、必ず鳳来寺への参拝を欠かさなかったと伝わります。家光・家綱の時代には家康を祀る東照宮が建立され、また20を超える僧坊が建てられるなど隆盛を極めました。
石段の後半部分は徳川家によるものとされています。本当に急でしたが皆さん頑張って登ってくれました。鳳来寺本堂に到着です。

13.石段後半部分
石段後半部分

14.鳳来寺本堂と鏡岩
鳳来寺本堂と鏡岩

山旅ツアーは本堂がゴールにあらず。鳳来寺の山頂を目指します。本堂以降石段はなくなり、登山道らしくなってきます。不動堂や奥の院など史跡を眺めて進むこと約50分、山頂に到着です。
山頂奥の最高地点(瑠璃山と呼ばれています)にも足を延ばし、奥三河の幾重にも重なる山々を堪能しました。下りは鳳来寺東照宮も参拝し、慎重に石段を下ります。

15.鳳来寺山山頂
鳳来寺山 山頂

16.瑠璃山から奥三河の山々を望む
瑠璃山から奥三河の山々を望む

17.鳳来寺東照宮
鳳来寺東照宮

時の権力者から信仰を集めた鳳来寺山。ここは天皇や戦国武将、さらに俳人たちが足跡を残した歴史の舞台です。奥三河の自然と歴史に触れる楽しさを味わった2日間となりました。

18.本堂向かいにある種田山頭火の句碑
本堂向かいにある種田山頭火の句碑

【写真・文:宮本勝規】
日本山岳ガイド協会 登山ガイドステージⅡ
※一部の写真はツアー当日のものでなく、別日撮影したものです