登山コラム《山記者小野博宣の目》
二上山(517m)-大阪・毎日登山塾2023-ステップ1

阿部野橋駅周辺は商都・大阪の賑わいを象徴する街だ。
2023年3月11日の朝8時過ぎ、改札口は旅客が行きかっていた。ザックを背負った登山着姿の男女20人もいた。彼らのいで立ちをよく見ると、登山靴もザックも真新しい。毎日新聞旅行主催の富士登山塾の参加者だ。登山の初心者が低山から登山を始め、8月には日本の最高峰・富士山(3776m)の頂に立つという企画だ。
この日は、最初の低山に登る日なのだ。同駅を定刻に出発した電車は、車体を揺らして大阪の街を疾走した。やがて車窓は田園風景に彩られてゆく。緑に覆われた山が視界に入ってきた。名峰・二上山(にじょうさん)だ。奈良県葛城市と大阪府太子町にまたがり、北側の雄岳(おだけ、517m)と南側の雌岳(めだけ、474m)の2つの山頂を持つ。そして、参加者が挑戦する山だ。麓(ふもと)から山頂への斜面は急角度になっている。
「登りがいがありそうだ」。
毎年登っている筆者は、手ごわい山と知っている。過去には体力を失い、途中下山した人もいた。

午前9時半、二上神社口駅に電車が停まった。皆が駅員のいない小さな駅前に降り立った。
高山宗則・登山ガイドが「出かけましょう」と声をかけた。15分ほど歩くと、登山口近くの広場に到着した。ここで高山ガイドから登山靴のひもの締め方や、ザックの担ぎ方について説明があった。
「登山は歩くスポーツですから、登山靴は大切です」「(ザックの)背面と自分の背中をフィットさせてください」と話した。靴ひもを何度も交差させてほどけにくくした結び方や、ザックの調整方法を伝えた。

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靴ひもの結び方を伝える

身支度を整えた10時20分、「登りましょう」「ゆっくり歩きますので安心してください」とよく通る声が響いた。スギや広葉樹が生い茂る中、静かに足を運んだ。快晴の登山日和、参加者の額には汗がにじんだ。急斜面の登りが続く。
高山ガイドは「歩幅は小さく、段差の低いところを登りましょう。大きく足を上げると足が疲れます」と声をかけた。人気の山だけに行き交う人も多い。
「すれ違う時は、自分は山側に避けてください」とアドバイスした。

高山ガイドを先頭に、二上山を登る
高山ガイドを先頭に、二上山を登る

周辺の山々や自然を解説する二上山 (1)
二上山周辺の山々や自然を解説

午前11時44分に雄岳山頂に到達した。「やっと着いた」とほっとした様子だ。高山ガイドは「あべのハルカスより高いところに来ました」と励ました。

二上山・雄岳の山頂
二上山・雄岳の山頂

それぞれ記念撮影をした後、鞍部(山と山の間の低地)に下り、雌岳に登り返した。芝生の広がる山頂には12時17分に着いた。それぞれが昼食をとったが、思わぬ出会いが待っていた。
関西での富士登山塾は2019年に第1回を開催した。その際に参加し、富士山に登った女性がたまたまハイキングを楽しんでいた。
「友人とすき焼きを作って食べました~」と笑顔だ。
高山ガイドと久しぶりの出会いに、「懐かしいですね」と旧交を温めた。
女性は参加者の前に立ち、「私も登山はほとんどしたことがありませんでしたが、登山塾でステップアップし、富士山に登ることができました。頑張ってください」と激励した。最近では、雪の谷川岳(1977m)に登頂したそうだ。先輩の一言に、大きな拍手が沸いた。男性参加者は「道具をそろえて、この夏にはぜひ富士山に登りたい」と意気込んでいた。

広々とした二上山・雌岳
広々とした二上山・雌岳


【毎日新聞元編集委員、日本山岳協会認定登山ガイドステージⅡ・小野博宣】
●筆者プロフィール●
1985年毎日新聞社入社、東京社会部、宇都宮支局長、生活報道部長、東京本社編集委員、東京本社広告局長、大阪本社営業本部長などを歴任。
2014年に公益社団法人日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡの資格を取得。
毎日新聞社の山岳部「毎日新聞山の会」会長